mieki256's diary



2013/07/22(月) [n年前の日記]

#3 [anime] 刀語最終回の良さはトリガーのコンボにあったのかも

一眠りしたら、刀語のどのへんが良かったのか、なんか見えてきたような気がするのでメモ。

以下、ネタバレを含むので未見の人は読まないでほしいなと。それと、無駄に長いし、支離滅裂です。まあ、ただの思考メモなので…。

娯楽作品には、過去に登場したキャラクターの思い出を呼び起こす「トリガー」になるアイテム、てのがあるわけだけど。例えば。 等々。 *1

刀語においては、「刀」がソレで。刀が出てくると、刀を使ってた対戦相手の「思い出」が、視聴者の頭の中で浮かんでくる。刀の一本一本がトリガーになっている。

「思い出」と一言で書いちゃったけど、そこも要注意で。思い出は、人それぞれ違うもの。元となる光景・風景・人物の言動を目にして、どこを記憶するかは人によって全く異なる。人によって、趣味・嗜好・理解力・記憶力は違うから、覚えてる部位も違う。

各人の脳内で、その人専用の「最適化」「デフラグ」「圧縮」等がされた後の記憶情報が、「思い出」と呼ばれてる情報なわけで。100人居たら100種類の思い出がある。

なので、例えば映像作品などで、「思い出」に相当する映像を挿入したつもりになっても、視聴者の持ってる「思い出」とはえてしてずれてるわけですが。視聴者一人一人は、作品に対して異なる思い出を持ってるから、提示した思い出っぽい映像が視聴者の持ってるソレと一致することは稀で。故に、思い出の実体(=元々の映像)を挿入するより、視聴者の中に眠ってる思い出を呼び起こすためのトリガーを生成・挿入できたほうが、美味しいというか効果的で。

てなあたりを踏まえた上で。

思い出を呼び起こすトリガーが散りばめられている作品は、えてして商品としても強いわけですよ。例えば。 どれも、商品・作品として強いというか、ウケたというか。…要は、「オッサンホイホイは強い」という話に過ぎないのだけど。

前述の三作品は、思い出の実体は作品の外部にある。観客や視聴者が、日常生活の中で得た体験を思い出として持っていて、それを呼び起こすトリガーだけが作品内に散りばめられている。「思い出」のセットアップ作業はしておらず、再生処理だけをしている。

刀語は、それとはちょっと違う。1話につき1時間かけて各キャラを見せながら、それを十数話続けることで、丁寧にキャラの思い出作りをせっせと仕込んでた作品なんだろうなと。言うなれば、その作品単体でオッサンホイホイ状態を完成させていた。「思い出」のセットアップ作業と再生処理をセットで用意した作品。…まあ、フツーの娯楽作品も大体はそういう作りですけど。

てなあたりも踏まえた上で。

最終話で、これまで出てきた刀が再登場して、主人公は圧倒的な速度で一本一本を 破壊していくわけですが。今まで本編を見続けてきた視聴者は、それぞれの刀に関連付けたキャラの思い出を持ってるから、その刀の、前の持ち主が「本物」であり、新たな持ち主は「偽物」相当と思えているはず。そこで主人公が「偽物」を次々に 倒していくわけですから…。そこにはカタルシスが生まれる。

ノイタミナ放送時の、副音声のオーディオコメンタリーで、演者の人が「当時は自分と主人公がシンクロしてた」と言っていたけど。あの一連のシーンは、視聴者すらも、主人公とシンクロしちゃう状態を実現していたと言える。

主人公は、台詞には出さないけれど、「お前達は偽物に過ぎない」と思いながら動いていただろうけど。視聴者も、「こいつら偽物だ」と思いながら、主人公が 偽物に勝利し、トリガーとなるアイテムを 破壊していく様子を眺めている。そして、トリガーとなるアイテムの 破壊とは、主人公とヒロインが、これまで積み重ねてきた思い出の 喪失でもあるわけで。そりゃ見ているこっちも気分が盛り上がりますわ。主人公との一体感が得られますわ。

上手かったと思うのは、刀が再登場する際、前の持ち主の映像を挿入してない点。あのシーンは、たしかに刀だけ見せれば充分だった。スタッフが分かった上でやってたのか、偶然そうなったのか、そこは不明だけど。視聴者一人一人は違う思い出を持ってるのだから、下手に過去のキャラの映像を挿入してたら、興醒めになってたかもしれないと。…まあ、そういう興醒めな見せ方をしちゃう作品も時々見かけますけど。しかし、刀語においては、下手な追加をしてなかった。そこは上手かったんじゃないのかな、と。

そして、最後の対戦時、まるでとどめを刺すように、ヒロインが今まで何度か視聴者に見せてきた、あの台詞が挿入される。その台詞自体も、トリガーとして機能するアイテムだったわけで。 *2

でもって対戦直後、ヒロインの髪が映像としてチラリと出てくる。これもトリガー。 *3 そしてラスボス(?)を倒す際、主人公から発せられる、あの言葉。それも、ヒロインの思い出を呼び起こすトリガーになってる。

つまり、最後の数分〜十数分で、視聴者の中にじっくり溜め込まれてきた、作品にまつわる「思い出」を、怒涛の勢いで次から次へと呼び起こす作りになっていた。しかも、対戦シーンだから、それだけでも映像的に訴求力が強いわけで。ただ見せるだけでもインパクトがある映像の一つ一つに、思い出を呼び起こすトリガーも重ねちゃってる。それを視聴者に向けて、間髪入れず浴びせるように繰り出していたわけで…。

どうして自分は、見ていて「凄い」と思ってしまったのか。その時は今一つ分からなかったけど、こうして考えてみたら…。

要は、格ゲーで言うところのコンボだったのですよ。

視聴者の中に作られた「思い出」を、一つ二つどうにか引き出すだけでも、娯楽作品としては結構強いのに。それを十数回も、二枚重ねで、短い時間内に連続でやり遂げていた。主人公が画面の中でコンボ技を繰り出すと同時に、見ているこっちは、主人公とヒロインの旅路の思い出・美化された記憶を、コンボで再生させられていた。

一連のシーンを見終わった時、視聴者の頭上に「13HIT! x 2」と浮かんでるようなもんですわ。これでジーンとこなかったらおかしいやろと。「なんだコレ…スゲエ…」と思えたのは当然だなと。

ということで、どうして「凄い」と思えたのかは、なんとなく見えてきたのですけど。

しかしコレ、最終話だけ見ても全然面白くないでしょうな。全話視聴して、視聴者の脳内に思い出を溜めておかないと、ラストのあたりで全然グッとこないよなと。

劇場作品として作っていても弱かったでしょうな。2時間前後の尺では、観客の中に「思い出」を作ってる余裕が無い。記憶を最適化してる暇が無いですから。 TVシリーズ、それも、1話1時間の形でやれたから提示できた面白さ、のような気がします。 *4 本放送時は1年かけて放送したらしいけど。もしかすると、当時はそれも良い方向に働いていた予感も。時間がたっぷりあれば、記憶・思い出は、より美化されていくものですし。

オーディオコメンタリーで、「元永監督は静と動を意識する作家性」と言及されてたけど。そこも効いてたなと思えたり。監督さんによっては、最初から最後までアクセルべた踏みの人も居るし、最後まで徐行運転の人も居るし。そういう作家性だったら、こうはならない。この作品、元永監督が担当してくれて幸運だったのだろうなあ、とも思えてきました。

何にせよ、面白かったです。ええもん見せていただきました…。
*1: なんでか知らんけど、自分、「私の叔父さん」のタイトルを「恋文」と勘違いしてた…。「恋文」に収録されてた短編、が「私の叔父さん」なんだけど。ちなみに、数年前に映画化されていたようで。知らなかった…。
*2: 書いてて思い出したけど…。あの台詞が出てくる直前、フラッシュバックとして、ヒロインの表情がアップで次々に挿入されるわけですが。そこは自分、テンション下がっちゃったんですよね…。主人公がヒロインのことを思い出しながら戦いを始める場面なので、ヒロインの顔のアップが次々に出てくるのは正しい。ヒロインと一緒に旅をしてた主人公にとって、ヒロインの思い出とは、目まぐるしくクルクルと変わるあの表情だったはず。だから、ソレを見せるのは正しい。しかし、主人公が持っているはずの思い出としては正しくても、視聴者にとっての思い出とはずれてる可能性が高い。人によっては、ヒロインの貧乳ばかり思い出したり、太ももばかり思い出したりするかもしれない。例えば自分の場合は、主人公とヒロインがロングで収まってるカットばかり思い出すわけで。…刀が次々に再登場することで、主人公と視聴者のシンクロ率はグングン上がっていく。でも、ヒロインの顔がフラッシュバックされることで、一旦シンクロ率がドーンと下がっちゃう。惜しい。もったいない。…でも仕方ない。主人公の脳内ではそういう映像が浮かんでるんだからソレを描かないと。また、「じゃあ映像を入れるのはやめよう」という選択もマズい。あの台詞だけでトリガーになるか、刀ほどのトリガーぶりを出せるかというとそれは厳しいので、やっぱり映像が欲しい。しかしそこで、視聴者の中に眠る思い出を無理矢理引き出そうとして、主人公視点ではない映像を入れてしまったら、それもなんだかおかしい。…まあ、そういう場面で、主人公視点ではなく視聴者視点の映像を入れちゃう作品も時々見かけますけど。…台詞のみに留めたほうが効果的なのか、映像も入れたほうがトリガーになるのか、映像を入れるとしてもどっちの視点で入れるべきか、そのあたり判断が難しいよなと。なので、自分は萎えちゃったけど、まあ仕方ないですよねえ、と思うわけで。
*3: 主人公とヒロインの髪を絡めていたのは、このためにあったのかと、合点がいきました。
*4: もっとも、上手い劇場作品は、最適化する必要が無いほどにあらかじめデフォルメした印象的シーンを盛り込んでおくのが手管のような気もしますが。

以上です。

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