2015/11/06(金) [n年前の日記]
#3 [anime][neta] アニメ業界とデジタル制作と表と裏
※ 2015/12/04追記。これを書いた時にはアナログ制作時代のセルについて完全に勘違いしたまま書いちゃってたけど、この日の思考のメモとして残しておきます。
CLIP STUDIO PAINT を弄ってるうちに今頃になって気づいたのだけど。もしかすると日本のアニメ業界は、デジタル制作への移行時に選択ミスをしたのかもしれないなと思えてきて。アニメ制作に特化した、「表」と「裏」を持っている画像フォーマットを新規に策定すべきだった、かもしれないよなと。
説明が必要かしら。
アナログ制作だった頃は、「1枚のセルで、線画と塗りの両方を表現できていた」よなと。セルの表には、主線と色トレス線が載っていて、セルの裏には色が塗られていた。「表」と「裏」を上手に使って、一枚で済ませていたわけで。
ところが、そのやり方を、そのままデジタル制作に適用すると、線画は線画レイヤー、塗りは塗りレイヤーに分かれることになる。つまり、今まで1枚で済んでたものが、2枚になっちゃう。
「1枚が2枚になるだけだろ? たいしたこっちゃねえだろ」と言われるかもだけど、とんでもない話で。仮に、とあるTVアニメ1話分を、今まで4,000枚で作ってたとしたら、デジタル制作になった途端、倍の8,000枚を相手にして作業することになる(ように一見すると思えてしまう)。当然現場からは「ふざけんな!」「俺達を殺す気か!」と怒りの声が上がるだろうと。これではデジタル導入も進まない。 *1
そこで、RETASを作ったセルシスさんは名案を思いついた。線画を2値化してしまおう。2値化して、線が描かれていない空間に、バケツツールでワンクリックで色を塗ってもらおう。これなら1枚の画像に、線画も塗りも同居させられる。
かくして日本のアニメ業界は、デジタル制作に移行しても、セルは1枚で済むようになりました。めでたしめでたし。
全然めでたくないです。
その方法だと、線画を2値化する際に、原画・動画が持っていた鉛筆の微妙なタッチがごっそり失われてしまう。 *2 さらに、2値化した画像はジャギだらけなので、色を塗った後、ジャギ消しするためにスムージングフィルタをかける。そこでまた、線のエッジが失われる。作業工程上、確実に2回も、画像情報の喪失・劣化が起きてるわけで。
今まで4,000枚で作ってたとしたら、その4,000枚には、トレスマシン経由でアニメーターの匠の技が定着していたはずで。しかし、その4,000枚分の匠の技が、デジタル制作では邪魔者扱い。そんな情報は不要とばかりに、問答無用でデジタル空間の虚無へと投げ捨てて、二度と戻ってこない。コレのどこが「めでたしめでたし」なのか。
しかし仮に、デジタル制作導入時に、もうちょっと考えていたら…。そのように夢想してしまったわけです。
「セルや紙には、表と裏があるよね」「アニメ業界は、表と裏を上手に使ってきた特殊な業界だよね」「であれば、その業界で使うデジタル画像フォーマットも、表と裏が含まれてないと、こりゃあかんやろね」と考えてたら。表には、鉛筆のタッチを含んだ線画をそのまま残し、裏にペタペタ塗ってたかもしれない。そうなってたら、失われるものは何も無かった、かもしれない。
てなことを思ってしまったのでした。
画像フォーマット策定と言っても、どうせ内部的には、RGB各8bitのbmp x 2枚 + アルファチャンネル相当のグレースケールbmp x 2枚を、それぞれzip圧縮でもして梱包しただけのコンテナフォーマット、とかそんな感じだったろうなと。そんなぞんざいなフォーマットでも、利用者からは「表」と「裏」を持った1枚の画像に見えて、拒否反応は抑えられたかもしれない、などと想像したりもするのでした。
CLIP STUDIO PAINT を弄ってるうちに今頃になって気づいたのだけど。もしかすると日本のアニメ業界は、デジタル制作への移行時に選択ミスをしたのかもしれないなと思えてきて。アニメ制作に特化した、「表」と「裏」を持っている画像フォーマットを新規に策定すべきだった、かもしれないよなと。
説明が必要かしら。
アナログ制作だった頃は、「1枚のセルで、線画と塗りの両方を表現できていた」よなと。セルの表には、主線と色トレス線が載っていて、セルの裏には色が塗られていた。「表」と「裏」を上手に使って、一枚で済ませていたわけで。
ところが、そのやり方を、そのままデジタル制作に適用すると、線画は線画レイヤー、塗りは塗りレイヤーに分かれることになる。つまり、今まで1枚で済んでたものが、2枚になっちゃう。
「1枚が2枚になるだけだろ? たいしたこっちゃねえだろ」と言われるかもだけど、とんでもない話で。仮に、とあるTVアニメ1話分を、今まで4,000枚で作ってたとしたら、デジタル制作になった途端、倍の8,000枚を相手にして作業することになる(ように一見すると思えてしまう)。当然現場からは「ふざけんな!」「俺達を殺す気か!」と怒りの声が上がるだろうと。これではデジタル導入も進まない。 *1
そこで、RETASを作ったセルシスさんは名案を思いついた。線画を2値化してしまおう。2値化して、線が描かれていない空間に、バケツツールでワンクリックで色を塗ってもらおう。これなら1枚の画像に、線画も塗りも同居させられる。
かくして日本のアニメ業界は、デジタル制作に移行しても、セルは1枚で済むようになりました。めでたしめでたし。
全然めでたくないです。
その方法だと、線画を2値化する際に、原画・動画が持っていた鉛筆の微妙なタッチがごっそり失われてしまう。 *2 さらに、2値化した画像はジャギだらけなので、色を塗った後、ジャギ消しするためにスムージングフィルタをかける。そこでまた、線のエッジが失われる。作業工程上、確実に2回も、画像情報の喪失・劣化が起きてるわけで。
今まで4,000枚で作ってたとしたら、その4,000枚には、トレスマシン経由でアニメーターの匠の技が定着していたはずで。しかし、その4,000枚分の匠の技が、デジタル制作では邪魔者扱い。そんな情報は不要とばかりに、問答無用でデジタル空間の虚無へと投げ捨てて、二度と戻ってこない。コレのどこが「めでたしめでたし」なのか。
しかし仮に、デジタル制作導入時に、もうちょっと考えていたら…。そのように夢想してしまったわけです。
「セルや紙には、表と裏があるよね」「アニメ業界は、表と裏を上手に使ってきた特殊な業界だよね」「であれば、その業界で使うデジタル画像フォーマットも、表と裏が含まれてないと、こりゃあかんやろね」と考えてたら。表には、鉛筆のタッチを含んだ線画をそのまま残し、裏にペタペタ塗ってたかもしれない。そうなってたら、失われるものは何も無かった、かもしれない。
てなことを思ってしまったのでした。
画像フォーマット策定と言っても、どうせ内部的には、RGB各8bitのbmp x 2枚 + アルファチャンネル相当のグレースケールbmp x 2枚を、それぞれzip圧縮でもして梱包しただけのコンテナフォーマット、とかそんな感じだったろうなと。そんなぞんざいなフォーマットでも、利用者からは「表」と「裏」を持った1枚の画像に見えて、拒否反応は抑えられたかもしれない、などと想像したりもするのでした。
◎ 上手くいくわけがない。 :
もっとも、仮にそういう画像フォーマットを作ったとしても、上手くいかなかっただろうと思えるのですが。
まず、PC上で作業する際、表と裏を間違えて作業しちゃうミスが頻発するだろうなと。
紙やセルの場合は、物理的にひっくり返すから表と裏を間違えないと思うのですけど。PC上では、おそらくクリックひとつで表と裏を切り替えることになる。うっかりクリックして表裏を切り替えたことを忘れてバケツツールでクリックして「あっ」が絶対あるだろうと。現場からは、「なんで表と裏があるんだ!」「面倒臭い!」「このクソ画像フォーマットを作ったのは誰だあっ!」と文句が出ただろう、と思うわけですよ。
もう一つは、他の画像・動画編集ソフトが対応してくれないよなと。
紙やセルの、表と裏を両方使う業界なんて、アニメ業界だけですから。漫画やイラストや写真は「表」しか使いませんから。故に、Photoshop や AE あたりは「需要少ないやろ」と無視を決め込みそう。となると、既存の画像フォーマットに変換しなおす・中身を解体するツールが必要になって、「どうしてわざわざ変換しないといけないんだ!」「面倒臭い!」「このクソ画像フォーマットを作ったのは誰だあっ!」と以下略。
そして、その手のアレに詳しい人から厳しいツッコミもあっただろうなと。
「コレ、ただのコンテナフォーマットじゃん」「中身をそのまま、複数枚の画像として外に出しとけば済むじゃん。他のソフトでも開けるようになるし」「このクソ画像フォーマットを作ったのは誰だ」。こういう人達は、自分でセルの色塗りをしたことがないので、見た目だけでも1枚に見えてれば、仕上げの人達が悲鳴を上げずに済むことも想像できなくて。「あ。ソレは言わないで。このまま誤魔化しといて」てな空気を読んでくれないから、画像フォーマットをフルボッコすること間違いなしですよ。
てなわけで、実際やっても上手くいかんかったやろ、とも思えるのでした。
まあ、今更どうしようもないですね。RETAS + 線画2値化がこれだけ普及しちゃったら、どうしようもない。
クリック一つでスイスイ塗れる、このやり方を体験してしまうと昔には戻れない。「今更『裏に塗れ』とか冗談じゃねえ」って感じですよ。もう遅い。線のタッチにこだわるアニメーターさんには申し訳ないけど、このまま行ってしまうのだろうと、素人の自分も思うのでした。とメモ。
まず、PC上で作業する際、表と裏を間違えて作業しちゃうミスが頻発するだろうなと。
紙やセルの場合は、物理的にひっくり返すから表と裏を間違えないと思うのですけど。PC上では、おそらくクリックひとつで表と裏を切り替えることになる。うっかりクリックして表裏を切り替えたことを忘れてバケツツールでクリックして「あっ」が絶対あるだろうと。現場からは、「なんで表と裏があるんだ!」「面倒臭い!」「このクソ画像フォーマットを作ったのは誰だあっ!」と文句が出ただろう、と思うわけですよ。
もう一つは、他の画像・動画編集ソフトが対応してくれないよなと。
紙やセルの、表と裏を両方使う業界なんて、アニメ業界だけですから。漫画やイラストや写真は「表」しか使いませんから。故に、Photoshop や AE あたりは「需要少ないやろ」と無視を決め込みそう。となると、既存の画像フォーマットに変換しなおす・中身を解体するツールが必要になって、「どうしてわざわざ変換しないといけないんだ!」「面倒臭い!」「このクソ画像フォーマットを作ったのは誰だあっ!」と以下略。
そして、その手のアレに詳しい人から厳しいツッコミもあっただろうなと。
「コレ、ただのコンテナフォーマットじゃん」「中身をそのまま、複数枚の画像として外に出しとけば済むじゃん。他のソフトでも開けるようになるし」「このクソ画像フォーマットを作ったのは誰だ」。こういう人達は、自分でセルの色塗りをしたことがないので、見た目だけでも1枚に見えてれば、仕上げの人達が悲鳴を上げずに済むことも想像できなくて。「あ。ソレは言わないで。このまま誤魔化しといて」てな空気を読んでくれないから、画像フォーマットをフルボッコすること間違いなしですよ。
てなわけで、実際やっても上手くいかんかったやろ、とも思えるのでした。
まあ、今更どうしようもないですね。RETAS + 線画2値化がこれだけ普及しちゃったら、どうしようもない。
クリック一つでスイスイ塗れる、このやり方を体験してしまうと昔には戻れない。「今更『裏に塗れ』とか冗談じゃねえ」って感じですよ。もう遅い。線のタッチにこだわるアニメーターさんには申し訳ないけど、このまま行ってしまうのだろうと、素人の自分も思うのでした。とメモ。
◎ 2015/11/16追記。 :
自分は勘違いしてました。アナログ制作時代、セルの表と裏は使われてなくて、裏しか使ってなかったのですね…。
◎ 2015/12/05追記。 :
アナログ制作時代も、セル1枚でありながらそこにはトレスマシンで転写された線画と、各絵の具を塗り重ねていくことによる「多層化」があったのだから、やっぱりレイヤーを内包してたようなものじゃないのかなと思えてきたりして。
*1: 実のところ、アナログ制作時代も、セルの「表」「裏」と言う2枚のレイヤーを使っていたわけですけど…。でも、物理的には1枚のセルに見えてるので、「これは1枚だ」と思ってた人が大半で、「1枚だけど、実は2枚なのだ」と思えていた人は少ないんじゃないか、と想像するのですが、どうだったんでしょうかね。
*2: もっとも実際は、原画を元に動画の人が実際に映像になる線を引き直してると思うので、原画の線のタッチは動画になる時点で全部消えてる気も…。それに今の動画は液晶タブレットやペンタブレットで最初から2値化した線を引いてるだろうから、今となってはタッチがどうとか関係なさそう。たぶん。紙と鉛筆で動画を描いてるスタジオもまだあるけど、Toei Phils だの中韓のスタジオはタブレット+2値化作画ではないのだろうか。素人だから知りませんけど。
*2: もっとも実際は、原画を元に動画の人が実際に映像になる線を引き直してると思うので、原画の線のタッチは動画になる時点で全部消えてる気も…。それに今の動画は液晶タブレットやペンタブレットで最初から2値化した線を引いてるだろうから、今となってはタッチがどうとか関係なさそう。たぶん。紙と鉛筆で動画を描いてるスタジオもまだあるけど、Toei Phils だの中韓のスタジオはタブレット+2値化作画ではないのだろうか。素人だから知りませんけど。
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以上です。