《5月17日(金)》
勘弁してよ、もう

 コース:神護寺→西明寺→高山寺→仁和寺→松栄堂→寺町通・新京極

 は〜い、今日は高雄・槙尾・栂尾の、総称三尾コースでございま〜す。朝から陰鬱になってま〜す。雲行きが、雲の色が不吉なんだよぅ……。天気予報通り、嫌な天気。雨はまだ降ってないけど、遅からず降りそうな気配。「降っても俄か雨」という言葉を信じて、さっさと行って来ましょうかね!

 しばらくバス待ちした後、1時間近くバスに揺られて高雄到着。……既に雨、降りまくってます。ついでに、我々以外、観光客がおりません。……大丈夫ダロウカ……。

 バスの時間をチェックして、まずは神護寺に行く。この辺、市バスは1時間に1本しか通らないのね。JRバスは2〜3本。スルッと関西カードは使えないけど、JRの方が本数多い分便利かも。おっと、石段が見えてきた。どれ、行きますかね。

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 ………花梨。

 お前絶対体育会系だろ。

 こんな石段、すったか走れるなんて、絶対文化部系じゃない。

 石段は、楼門に近い方が傾斜・高さ共にキツイ。降りの時に苦労するのが容易に想像できる。しかも雨降ってるしなぁ。頭上の緑を見上げるどころではない。傘差して、必死に足元に注意を払って、ああ、ようやく着きました、神護寺。

 ……人がいません。

 「大丈夫なの?」とか母が言っているが、私が一番不安だわい。人が居ないんで心置きなく写真撮影、という訳にもいかない。何故かって、雨足が強くなって来たから〜(~o~)。人がいないのは時間が早かったせいで、後々ぱらぱら旅行生や観光客が来たんでいい事にする。が、雨が強いよう……。何はともあれ、かわらけ投げの現場に直行。……まぁ、なんて素晴らしい雲海でございましょう……。かわらけ売ってるお店もやってません。ただ、雨だけが卑小な人間を押し流すかのように降り続いている。この辺で母、もはや帰りたいオーラを放出。だから無理して来なくても……。お店がやってても、この雨の中、『振りかぶってぇ、第一球ぅぅーっ!』なんて出来る訳ないので、おとなしくトボトボと本堂の方に戻る。ああ、晴れてたら綺麗だったんだろうなぁ、錦雲渓……。

 本堂には薬師如来様がおられました。堂内に入る前に礼をとってたら、お坊さんがあるブツを出していました。そう、例のスタンプ。……やはり神子だと見透かされたか(゚o゚;)!?って言うか、ここ誰のよ?下鴨神社は鷹通だったから、コイツもパスしてきたんだけど(これもヒドイ)……ここ誰!?うぅっ、気になる!隙を見てチェックしようか、とか思ってたら、旅行生のグループが入ってきちゃった。しまった、これでは迂闊に動けん。周りの仏像を見ながら隙を窺うも、チャンスは無し。挙句に母がマイペースに出て行こうとするので、慌ててくっついていく。あ、しまった!!如来さまに坐礼とるの忘れちゃった……。


「……もう、どうしようもないわね、この子……」
「うん、自分でもそう思う。お坊さんがチラッとこっち見たんだけど、やっぱり不心得者、とか思ったかもね……。いや、そうなんだけど」
「仏の前で煩悩を掻き起こす物を出す、というのもどうかと思うんだが。仏の試練というやつか?」
「スタンプ……一番心残りだったのよね……。因みに後で調べたら、彰紋だった。ちょっと口惜しい」
「だめだこりゃ」


 雨に満ちた神護寺を去り、予想通り危険な石段を降りて、次に目指すは西明寺。ここらで雨は少し弱めになって、周りを見る余裕も出てきた。う〜ん、楓たちが素敵だわ。紅葉の季節はえらいこっちゃだから、私は新緑で我慢しよう。

 歩いて行くと、西明寺の裏参道が見えてきた。……あの〜、何ですか、この急傾斜の坂道は。神護寺の石段は思ってたよりマシだったけど、この坂道、結構辛いよ。えっちら登って、西明寺到着。結構ここは小規模に見えるなぁ。本堂を1枚…と思ったけど、格子戸だかに貼ってあるポスターがあまりに哀しくて、止めた。本堂に貼るなや……。色褪せてるし……。ここには大きな槙の樹があって、それが地名の由来なのだそうだ。1枚パチリとやってきたが、枝に汚い布がかかってて、今一つ美しくないのう。門前の石灯籠に苔生していて、母の命により撮影したが、私としてはその背後にあった杉(だったっけ?)の幹から出ていた一抱えはある瘤が気になった。何だコリャ。

 表参道の急で狭い階段を降り、次は高山寺だ。途中一般道に沿って歩くと、羊歯と苔の見事なコラボレーション。思わずパチリ。高山寺はどうやらあちこち工事?をしている様で、参道の一部がセメント乾き途中だったり(足跡付いちゃってたヨ)、金堂に工事現場用の黄と黒の板置いてあったり、小型シャベルカーが傾いて置いてあったり、人足があれこれ作業やってたり、となんだかなぁ、という状況でした。ここの有料ゾーンは何処にあるんだか訳解らない状態だったので、ここも早々に切り上げ。どうでも良いけど、やたらと茗荷が生えてたな、この境内。
 

「こんな感じで、三尾にはフラレました」
「日頃の行いが悪いからかしらね」
「言うと思った」


 JRバスを待って、栂尾から仁和寺へと向かう。ここも別段行く予定は無かったんだけど、時間空いちゃったもんで。それにしても、この雨は何ですか。どーこが『俄か雨』なんだか。仁王門の下でしばらく雨宿りしたものの、大して止みもしないから、キレて、境内に入る事にしましたよ。結構広いんだね、御室御所。

 ここ仁和寺で有名といえば、御室桜と、紫宸殿を移築したという金堂。紫宸殿の構造を手っ取り早く見たくば、ここ仁和寺の方が良いかもね。御室桜とおぼしき桜たちは、皆一様に樹高低く仕立ててありました。こういう品種なのかな?満開時は綺麗でしょう…て、どの花の名所でも言ってるわね。

 紫宸殿、もとい金堂は、御所のそれより装飾の点で煌びやかになってました。まぁ、ここも門跡寺院で、御所と呼ばれる様な所ですけど、俗世間にある本家より煌びやかな寺って…何だかなぁ。雨の為に人少なだったせいか、雰囲気は良かったですな。金堂の写真には女子中学生のグループ入っちゃったけどさ、ちぇっ。あ、しかも金堂に入り損ねた!しまったよ!!

 その後庭園の方へ。ここは本来有料の筈だが、この日は無料で入れた。何で?有料の方が人が少なくて良いんだけど……いや、得したけども。廻遊式庭園……というやつですか。大変風情と情緒のある庭園でした。永泉のやつ、随分と良い所に住んでたんじゃねーかよぅ、とか考えている辺り、私の頭には風情の欠片も無かったのかも知れないけど。でも、こんな場所でゆったりして庭を眺めるなら、雨の降るのも悪くない、とか思っちゃったりして。

 この後はバスで烏丸丸太町まで行って、昼食をとった後、お香の松栄堂に寄りました。香木に見とれていたかったけど、店のお姉さん達の視線が怖くて早立ち去って参りましたです。


「松栄堂には何を買いに行ったんだっけ?」
「えーとね、文香カード。開くと切り絵で植物が表わされてる、っていうカードが欲しくてね。文香も入ってるから文香カード。元々『冷泉家の至宝展』やった時に『梅』のカードを買って持ってたんだけど、『南天』とかが入手できなくて。だから本店で買おうと思ってたのさ。買い物に行くには最低の天気だったけどね〜」
「それでも入手できたんだから、良しとしなくちゃ。ただ、『竹』は無かったんだよな。それは私も残念だよ。良さそうなカードだったから」
「でもああいう店って、なんだかやっぱり私には敷居が高いわ。老舗って大概何処もそうなんだけどさ、『庶民はお呼びじゃありませんことよ』って雰囲気なんだもんよ。もう少しフランクにしてくれ、というか、庶民も入りやすい支店も作ってほしいなぁ」


 その後は寺町通に向かう。時間があるので、今の内にお土産を買っておこうという算段。でも、雨の中、烏丸丸太から寺町三条までは―――厳しいわ。ずぶ濡れになりつつもアーケードに到着。とり市老舗でお気に入りの漬物としば漬けを購入、後は聖護院の八ツ橋〜、とか思ってると、母は何だかよく解ってない様子。新京極辺りでは何処にでも八ツ橋が置いてあるのに、その辺は目もくれない。どうも目の前で作っているのが良い、とか思っているようだ。私の聖護院への拘りは、故無い事ではないというのに……。

 しばらく何だか解らないままブラブラ新京極と寺町を往復していると(私もこの人どうしたもんだよ、とか思って、かなり気分が荒れてたんだけどさ)、母、面倒になったのか、手近にあった八ツ橋屋で土産を買い始める。見ると、私としてはまず論外、のブツな訳だが、母は結構な量を買っている。これ、明日持って帰るんですけど。ねぇ?大丈夫?別な所でも、今度は聖護院の大箱を3箱購入。もはやこの時点で、私は自分の分はどーでも良くなった。翌日駅で買お……と思い荷物持ちに徹する。おかげでよーじやに寄れなかった。くぅ。何にしろ巨大な荷物を抱えつつ、ホテルに戻る。荷物の整理をしてみると、ほーら、案の定箱がでかくて入らないじゃありませんか。困っている母に溜息をつきつつ、私は自分のトランクの空いてる場所に、わらび餅をせっせと詰め込むのであった。


「この日の小宮は、かなり精神的に限界に来ていた様だったね」
「その通り。やっぱ駄目だね。こういうマイペース人間は、一人で動く方が向いてるよ。もしくは趣味の合う気の置けない友人と一緒じゃないと。というより、我が嗜好に理解を示してくれる人物でないと」
「つくづく身勝手な子。でも、それを取ったらあんたに何も残らないのも事実だわね」
「そういえば、八ツ橋ですけれど。翌日私、結局駅で自分の分を買ったんだよ。勿論聖護院。家帰った時、母が買ったのと食べ比べてみたけど、母が買ったやつ、妙に餅っぽくて大味で、やはり駄目。聖護院に軍配があがりましたさ」
「さすが、食い意地が張ってる奴の選ぶものだけのことはある、ってか?でもあれ、パッケージ自体コンパクトだし、荷物にならないで済むっていう点も、確かなのよね」
「八ツ橋といえば、新京極で母御が聖護院のを買う時、ちょっと面白かったんだよな。店頭で3箱注文したら、店主の奥さんが、『ちょっと聖護院行ってくるわ』って言うから、何かと思ったら、3件ほど隣の店に行って、注文したサイズの箱を持ってきたんだよ」
「…なんで?」
「店頭の在庫が無かったからなんだけどさ、その3件隣ってのが、実は聖護院八ツ橋本舗の新京極店だったんだよね〜(^_^;)」
「はぁ〜?何なの、その間抜けさは……」
「いや、中坊が群がってたんで、オイラすっかり見逃しちゃってたのさ」
「最初からここで買えば良かったってね」
「まあ、母、消費税分勉強してもらって、しかもおまけも貰ったんだけど、その土産物屋で」
「何だかねぇ……」


(つづく)


 
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