《5月12日(日)》
悩みの種、勃発 ……どうすればいいの……


 コース:法隆寺→中宮寺→斑鳩神社→法輪寺→法起寺→薬師寺→平城宮趾→法華寺


 今日は斑鳩の里コースである。斑鳩といえば法隆寺。法隆寺といえば斑鳩。朝一番で法隆寺に行けば、修学旅行生や他の観光客ともかち合わずに済むだろう、という訳で、さっさと出発。

 今回の奈良旅行の一番の目的は、オリジナルストーリーの検証だという事は述べたが、ここ法隆寺−及び斑鳩の里近辺−は、前半ではかなり大事な場面の舞台として設定していたので、都合良くヒロインが拉致され易く、且つ鬱蒼とした林などが存在する場所を探す事に決めていた。具合的に良いのは奈良公園なんだけど、設定やら考えると、斑鳩が一番近いんだよね(困)。

 そんな訳で、バスの駐車場とか、背景写真を撮りつつ、境内に移動。まだそれ程人も多くないので、比較的マシに撮れたと思う(いや、気分的に)。

 だが、しかし。実際舞台の検証をしてみると、だな。法隆寺ってのは住宅地の真ん中に立地しておって、人目につかずに人を連れ込める林がすぐ近くに無いのである。西円堂の方は割合人が少なかったが、金堂などから東は人も多い。それにあまり、『サブキャラがお茶飲んでる場所』に適当な場所も無い。(まあ、これは参道前、駐車場脇のお食事処でもOKだが。)それ以前に、ヒロインが一人で休める場所が無い。困ったぞ。うん、色んな点で困った。人がいないという点では西側なので、次回はそちらを検証するか……と思いつつ、ぐるっと回ってみた。金堂や五重塔は、そんな私の卑小な悩みにも黙し、ただ千年以上を喃々とする時の流れを宿し、聳え立っていた――――――。

 って、それどころじゃないの!何とか上手い場所を模索しなくてはいけないのよ!!変な所でこだわり屋の私は、更にグッドな地を検索する事にした。この近くには法輪寺・法起寺というものもある。その辺も検証するのだ!と、その前に、法隆寺の夢殿はお約束だし、行かなきゃね。そこから中宮寺にも行って、ああ、なんだか甘味が食べたいかも……。(入口に『お抹茶500円』とかあったので。)中宮寺は小振りながらもわりかし好きなお寺かも。山吹が結構多かったので、時期が良いと素晴らしかったかも……って、今回そんな所ばかりだなぁ。でも、今年は2週間ぐらい早かったんだよな、花。ちぇっ。

 次は斑鳩神社。祭神は何だったっけ(おいこら)。恵比寿様が摂社に居たのは覚えてるんだけどねぇ。鎮守の森がいい感じで、この辺第二候補か?と思ったんだけど、どうも地元民位しか(あと物好きなヤツ)来ないみたいで、静か過ぎ。とても修学旅行生が来る様な所ではなく。主人公とかが必死で探すのにはお似合いの環境なんだけど、少し面積的に難あり。却下つーか、保留。北の方、火葬場だか何だかでお墓が一杯。うきゃ。ついでに、周りは農地が多かったです。雑木林までは、……遠いな。

 さて、今度は法輪寺。周りに所々林があって、なかなか良さ気だったんですが…。如何せん農地も一杯で比較的開けちゃってるのよぅ、空間的に。林の面積・広がりは理想的なんだけど、日曜だってのに(午前中だけど)人少ないしさ、やっぱ物好きでないと来ないよ、こんなとこ、って感じ。そりゃ世界遺産じゃないけどさ。学生服のグループが居たら、あっさり判っちゃうよう。

 午前のラストは、世界遺産の法起寺。やっぱり田んぼの真ん中に聳えてます(泣)。ここもそんなに人が居なくて、写真も撮り放題でした。撮影禁止の立て札はあったんだけどね、なぜか。やっぱり世界遺産って事で、かしら。いえ、あまり撮りませんでしたが。ここはそこに行くまでの道が印象にあって。何がっていうとだな、どっかの新興宗教の教祖の墓だか何だかがあってさ、それが使えそうだったのよねぇ〜、前述の場面にさ。尤も、やっぱり周り開けちゃってて、しかも車ビュンビュン走ってるんですけれど。

 それにしても、ああ、困った。


「もう少し学術的な見方は出来なかったの?えぇ?」
「う〜ん、斑鳩は背景・舞台の取材対象として行った所だからねぇ。誰が建立した、とか、歴史的背景がどう、とかは、この時点では特に気にしてなかったさ。その辺は別に家でも調べられるものだし。ただ取材という点では、やはり母込みのせいか、ゆっくり考え巡らせたり出来なかったのが心残り。こういう旅では、極力一人で動くのが良さそうだね、やっぱり」
「観察するという点でも、一人の方が余計な気を使わずに済む、という事だね。同感だな」
「観察力も無いくせに」
「うぐっ」


 お昼ご飯を食べたら、午後の行動開始。近鉄橿原線は近鉄郡山駅から西ノ京駅まで乗って、薬師寺に向かう。途中郡山城なんかも仰ぎ見て。薬師寺は、私にとっては、『凍れる音楽』の水煙ですね。修学旅行の定番コースなので、一応チェック。でも、やっぱりここも中坊しかいないのぅ〜(泣)。後はやはり年配の方々。五重塔は東塔だけ撮影。西塔は新しいせいか、あまり惹かれなかった。何でじゃ?東塔撮影の際、カップルが一組、やたらと前に陣取ってて、なかなか離れてくれなくて、腹が立った。どけっつーの。どうも記念写真撮影する連中の気が未だに解らん。折角来たんなら、対象物だけの方が美しいではないの。それもんの衣裳着た美男子美女ならともかくさ。プンプン。(あ、ちゃんと参拝しましたよ。薬師如来様に、耳鼻咽喉科系の治癒をお祈りしてきました(←鼻炎持ち)。)

 その後北の方に流れると、玄奘三蔵院で、平山郁夫氏の壁画を展示しているとかで、母が早速すったかと。行くのはいいけど、カメラのフレームに入らないでよぅ。壁画はとてもスケールが大きくて良かったです。こういうもんは、あれこれ講評するんじゃなくて、思ったその第一印象を素直に表現するべきですね、全く。八角堂は特に興味が無かったので、床石の文様を撮影してました。

 唐招提寺や垂仁天皇陵はすっ飛ばして、尼ヶ辻駅で下車。ここから歩きで平城宮跡までGO。結構歩くなぁ。するってぇと、見えてきた。おお、朱雀門だ!それなりに人が居たけど、そこはそれ、復原の素晴らしさに、古代のロマンに思いを馳せる。手前の方には土塀も復原してあって、柳の木も植栽済み。いいねぇ、これが都の大路なんだねぇ。ボランティアのガイドの小父さんにちょこっと話を聞いたりする。朱雀門は基本的に開かずの門。よっっぽどの事(海外の使節が来た、とか)が無ければ開きませんでした。ので、隣にある壬生門(単なる四足門?)から出入りしてたんだそーだ。大極殿は一次・二次があって、現在第一次の方を復原予定。因みに朱雀門は36億円ぐらい、大極殿はその10倍はかかるらしい。うわ〜。金が無きゃ出来ませんね……。

 ついでに聞いたのは、右京と左京の栄え具合。平安京だと右京は湿地の為に寂れてたけど、平城京はどうかなって思って。そしたら、やっぱりこっちも右京の方が寂れてたみたい。西側は山地になってたからだって。確かに、斑鳩方面から見る生駒・信貴山地は、なかなか栄えそうに無かったかも。というか、結構斑鳩〜大和郡山のあたり、歩くに辛い坂とか多かったかも……。
 
 どうでもいいけど、小父さんの持ってたガイド用の資料、あれが欲しかったな…。こんな簡単な見取り図じゃなくってさ……。

 その後、兵部省跡を見たり、第二次大極殿や内裏の礎石跡を遠くから見たりしながらもう一つ復原されている東院庭園へ赴く。途中の道は言ってみりゃ野原なんだけど、虫が多くて嫌になったなぁ。母は蛍でしょ、とか言ったけど、私に近づく虫は例え蛍でも許さんのだ。ていうか顔に寄って来なきゃいいんだってば、この、鬱陶しいなぁ、もう!!

 で、東院庭園に到着。ここはタダで見られるので嬉しい。しかし維持費はどうしてるんだろう…。やっぱ税金?入ってみると、おお、よく造ったなぁ、とは思ったんですが…なんだか寂しいなぁ。植栽がまだ大きくないせいかな。夜に蛍でも飛んでりゃ絵になるんだろうけど。でも、造り的にはまぁまぁ好きです。やはり後は演出だな、うん。


「意外と感慨を覚えなかったんだよね。疲れてたせいかも知れないけど」
「周りと隔絶されていたからね。そういう点も、やはり重要なんだろうね」
「今回見たのは、門と庭園だけだったの?」
「うん。平城宮跡資料館は逆方向だったし、遺構展示館とかも少し遠かったから。でも、まぁ、次回のお楽しみって事で。それはそうとさ、ここ虫が多かったんだよね」
「ああ、言ってたわね。で?」
「日焼けのせいか虫のせいか判らないけど、翌朝から首周りが赤くなって、しかも痒くなったの。これって虫のせいかな。しばらく続いてて、実はこれ書いてる時点でも皮膚が変なんだよなー」
「…両方じゃないの?あんた首に日焼け止め塗らなかったでしょ」
「……かも」
「そういえば、京都では長袖を着ている女性が多かった。日差しが強いからなのかな」
「かも」
「やれやれな子だわね、ホント」


 本日のラストは法華寺。向かう途中で、先程朱雀門で話を聞いた小父さんに遭遇。法華寺は庭園が見事とのこと。疲れた体に休息を、という事で行って見ましょうかね。ところで、母、この小父さんに色々と話し掛けている。……母よ。牡丹園なんて、関西に行ったら知ってる人なんて居ないよ……恥ずかしいなぁ、もう。(どうやら会津地方の方が判る人が居る模様。磐梯山とかスキー場とか?)

 法華寺に着くと、ああ、確かに庭園が見事そうだ。ここは、光明子の縁の寺で、古代の浴場(湯治場)があったらしいのですな。気にはなったけど、今回はそちらはパス。本坊の庭園だけを拝観。ああ、こりゃ落ち着くねぇ。欲を言えば、みたらし団子とお抹茶なんかがあると良いんだけど……、と言っている訳にもいかないので、少し休んだ後、退散。庭園を眺めてる時、一匹の白猫が紛れ込んできて、更に良い絵でございました。猫、好きなのよぅ。

 その後はもう、ひたすら歩いて歩いてホテルに帰りましたとさ。ああ、今日も暑かった。


「今回はオチなし?」
「いや別にオチをつけたい訳じゃないんだけど…。何にしろ、舞台設定で困った事になったわ〜、という気分が強くてね、この日は夜まで悶々としてました。やはり、実際に行って見ないと解らないね、こういうのはさ」
「百聞は一見に如かず、だね」


(つづく) 


 
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