−第41話− |
『――大変長らくお待たせいたしました。これより、はばたき学園高等部、学園演劇を開催いたします――』 吹奏楽部の発表が終わり、間に別の発表が入った後、いよいよ文化祭の華とも言える学園演劇の開催を告げるアナウンスが講堂に響き渡った。 「ふむ、ようやく開幕だな。すっかり待ちくたびれてしまったぞ!」 「ホントホント。でも楽しみだよな〜、どういう劇なのかサッパリ情報つかめなくってさー」 「あら、尽の情報網でも調査がつかなかったの?」 「そうなんだ。涼お姉ちゃんが徹底した情報管制敷いてたもんだから、誰も教えてくれなくって」 立ち見客まで大勢出るほどに観客で埋め尽くされた講堂の観覧席の一等地で、東雲一家(−1)は舞台開始までの間、和やかに家族の会話を楽しんでいた。 「なーに、ネタバレをしていないからこそ楽しみ具合も増そうというものだ!第一杉菜の晴れ姿が美しくないはずがないさ!しかしまったくジャッキーも不運なことだ、こんな日に当直とはな」 ジャッキーとは言うまでもなく寂尊の妹・若鈴の事である。この上なく杉菜のドレス姿を楽しみにしていただけに、今日彼女が診察する患者は病院に行った事をそれはもう後悔するような精神的圧力を感じていることだろう。 「――――ああ、マイケル!遅くなりました」 蒼樹が人を掻き分けて寂尊達の所にやって来た。たった今まで舞台後方の手伝いに駆り出されていたので、その労働の汗がキラリと額に光っている。 「お、蒼樹じゃん。準備の方はもういいのか?」 「はい。あとははば学のスタッフに一任です。最後の調整もノープロブレム、ひとまず肩の荷が下りました」 言いながら一家の隣の席に座る。鈴木の案により一部有料の指定席が設けられており、いち早くその指定席券を購入した一家は悠々と特等席で観劇に興じ得る訳だ。ちなみに蒼樹は協力感謝の意味でタダらしい。散々こき使ってこれなら安いもんである。 「お疲れさま、千晴君。じゃああとはその成果を観るだけね」 「はい!皆とても気合が入ってました。本当にワクワクします」 名前の通り晴れ晴れとした顔で頷くと、開幕のベルと共に講堂の照明が落とされた。ざわついていた場内が徐々に静かになり、期待に満ちた沈黙が降りて、幕が―――開けた。 ------------------------------------------------------------ <オープニング> 幕は下りたまま、中央にスポットライト。そこに浮かび上がるのはスクリーンに投影されたシルエット。 フレームの中で展開される影絵が動いてナレーションとかぶる。 ナレーション:『……昔々、ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいました。二人は大変仲の良い夫婦でしたが、子供はおりませんでした。まあいいかげん歳も歳なのでその内諦めて、気ままな二人暮しを送っておりました。 さて、そんなある日、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました』 ------------------------------------------------------------ 「「「――――――ん?」」」 昔語りの婆の如くゆっったりとした口調で始められたナレーションに、観客は揃って首をかしげた。 「……これ、『眠れる森の美女』だったよな……?」 「うん、そのはず、だけど……」 「なんか、『桃太郎』のオープニングな気がすんのはオレだけか……?」 ヒソヒソとここかしこで眉が顰められている間にも、影絵アニメは動いている。メルヘンはメルヘンだがどう見てもキャラクターの衣裳は中世日本のそれである。 ------------------------------------------------------------ ナレーション:『お婆さんが川で洗濯をしていると、川上の方から何やら大きな物体が流れて来ました。 遠目によくよく見てみると――――そう、それは一個の大きなドリアンなのでした』 ------------------------------------------------------------ ドドーン!という効果音と共に、怒涛の様な波のうねりに乗って映し出される巨大ドリアンのシルエットに、更に観客は首を捻った。 「……桃じゃないのか、オイ」 「てか、なんでドリアン?!」 だがナレーションはそのまま淡々と進んでいく。 ------------------------------------------------------------ ナレーション:『もちろん、お婆さんはそんな物を見た事はありませんでしたから、好奇心の赴くままに手近にあったお爺さんの越中ふんどしを投げ、うまいことドリアンの突がった部分に引っ掛けてゲットしました。おかげでふんどしはズタボロですが、お婆さんはそんなことは気にしません。 何はともあれ、お婆さんはその巨大なドリアンを背負ってきた籠に入れて、家へと持ち帰ったのでした』 ------------------------------------------------------------ 「越中ふんどしって……」 「……えーと、ギャグなの?この話……」 「つーかよ、なんか妙〜にリキ入ってないか?あの影絵……」 非常に本格的に作られた影絵アニメに、観客は思わず感嘆の溜息を贈るが、多分に眉を顰めているのは変わりない。 ------------------------------------------------------------ ナレーション:『家に戻ったお婆さんは、帰って来たお爺さんに事情を説明しました。そしてとりあえず中がどうなっているかを確かめる為に、ナタを取り出してドリアンを真っ二つにする事にしました。割ったら多分えもいわれぬ臭いが立ちこめるでしょうが、そんな事は知りませんからしょうがありません。無知というのは哀れなものです』 ここでティンパニのトリル音が緊張感を漂わせながら響く。 ナレーション:『お爺さんはナタを振り上げて、上段から真下に振り下ろしました。そしてその切っ先がドリアンの厚い果皮を破るかと見えた、その時ィ――――――ッッッ!!』 ドンガラガッシャーン!! やけに熱くなったナレーションに伴って雷鳴の効果音が会場全体に轟き、スクリーンが激しく明滅。 そして――――暗転。 ------------------------------------------------------------ 「…………?」 「なんだぁ?」 再びザワザワと観客席が騒がしくなったが、一旦消えたスクリーンは暗いまま、音声も照明も何もかも完全に沈黙に包まれた。 「…………故障?」 誰かがそう呟いた時、ナレーターの声が先程までとは一転した軽々としたノリでスピーカーから流れてきた。 ------------------------------------------------------------ ナレーション:『――――とまぁ前フリはこれくらいにして本筋に入りましょう!えー、昔々あるところ――まあ中世ドイツ辺りが妥当なのでその辺にしときましょう、その辺のとある国を統べる王様とお妃様がいたわけですよ、OK?』 ------------------------------------------------------------ ズコッ!! 勢いよく繰り出されたナレーションに観客の大部分がコケた。 「って、今の前フリなのか!?『昔々あるところに』以外に関係ねーじゃん!」 「てかドリアンはどうなったんだよオイ!!」 「誰よこんなオープニング考えたの……」 鈴木に決まっている。 その鈴木は舞台の後方でモニターを見ながら満足そうに笑っていた。このシーンの為だけ(という訳でもないが)にきら高の電脳部やアニメ研にも協力を要請しただけあって、周りのスタッフと共にしてやったりの表情である。 ------------------------------------------------------------ ナレーション:『ん?何?――――ああ、ドリアン?ん〜、その辺は『あなた方の心の中で……』って事にして、話進めまーす。 まあとにかく、王様とお妃様がいたわけなんですが、二人は周りが砂吐くくらいにべったべたで甘々なラブラブバカップルだったんですが、なかなか子宝に恵まれませんで、深く哀しんでおったのですよ。当時は性周期だのオギノ式だのの知識がありませんからねー、まあ合理性から言えば仕方ないっちゃ仕方ないところもあったんでしょうけどねぇ』 ------------------------------------------------------------ 「オギノ式って、鈴木のヤツ何考えて脚本書いてんだ……」 「それよりこのナレーター、マナじゃないの?なんか凄まじくノリ良すぎんだけど」 その通り。どうやら元ネタのモデルとは大幅に性格は異なるようである。(←だからそんな事はどうでもよろしい) ------------------------------------------------------------ ナレーション:『何はともあれ、税金をたっぷり使っての蜜月旅行だのアテにならない神頼みだの、いろんな手段でもって子供を授かろうと努力した結果、何とかかんとかお妃様は御子を身ごもりました。そしてちゃんと計算通りの出産予定日に珠のような姫君がお生まれになりまして、生誕を祝う洗礼の式が執り行われる事になったのでございましたとさ――――』 優雅な宮廷音楽のBGMスタート、幕がゆるゆると上がって照明がゆっくりと舞台を照らす。 <第1幕・シーン1〜王宮大広間、祝宴の最中> 豪華な飾り付けを施された城内。多くの貴族階級の招待客が祝福を述べに来ている。BGMは引き続き華やかな宮廷音楽で。 侯爵:「国王陛下、王妃殿下、このたびはまことにおめでとうございます!」 伯爵夫人:「本当ですわ。長く待ち望んだ御子様が、このように美しい姫君だなんてうらやましゅうございます」 口々に祝福の言葉を送る招待客。 下手側のステップの奥から、国王と妃が登場。妃の腕には赤子が抱かれている。 二人の衣裳は超ヅカチックなゴージャス具合で。 二人とも非常にご機嫌な様子で、王はオーバーな身振りと共に招待客に挨拶。 王(三原):「ようこそ、レディーズアンドガイズ!皆の祝福をボクたちは心から感謝するよ!でもね、この美しいボクと、この美しい妃の間に生まれた愛の結晶が美しいのは当然のことだろう?もちろん祝福はありがたいけれど、当たり前のことを褒められてもなんだかちょっと物足りないね。そうは思わないかい、ハニー?」 妃(須藤):「その通りですわ陛下!わたくしたちの麗しの姫がそんな平凡な一言で片付けられてしまうなんて、少し納得できませんわ。ああでも、きっとこの子は陛下のように見る者すべてに感動を与えるほどに美しい女性に育ちますわね……」 王:「そうだね、それは間違いないね。けれど……そう、そうなんだ。たとえ美しくても、誰かを優しく包み込むことが出来なくては意味がない。ボクの愛しい姫には、そんな優しさに満ちた貴婦人に育ってほしいんだ。そう、ボクの愛しいキミのように……」 妃:「陛下……」 王と妃、見つめ合い互いの手を握りながら、スポットライトの中二人の世界を構築(BGM:世界は二人のために)。 周りの招待客、コソコソと「またやってる」「ほっとけほっとけ」と愚痴。一部「あーここのメシ美味いなー」等。 その間を縫って上手側から女官長が登場、陶酔している二人にキビキビと割り込むように告げる。 女官長(有沢):「浸っているところ申し訳ありませんが、よろしいですか陛下」 王:「ん、どうしたんだい女官長?」 妃:「……ちょっと!せっかく陛下との幸せな一時を過ごしているのにジャマしないで!まったくも〜、陛下の乳兄妹だからって図々しいと思わないの?」 女官長:「……しないで済むならそうしたかったわよ。(←思いっきり不機嫌そうにボソッと)それより、ご招待した仙女の方々がお見えになりました。お通ししてもよろしいですか」 王:「ああ、ようやく待ち人来たりだね!うん、いいよ。ボクたちのスウィートプリンセスに祝福の魔法をかけてもらわなくてはね」 ナレーション:『この時代は国中の仙女に祝福の言葉を贈ってもらうのがトレンドでした。理由は判りませんがロマンチシズムにはこういう設定も必要なんであんまり深く追求しないでやってください』 上手から仙女がぞろぞろ入ってくる。各自「おめでとう!」だの「やったわねこのぉ!」だの笑顔で祝福を述べる。 彼女達の顔を見渡して、王、ふと首をかしげる。 王:「……おや?確かボクは七人の方に招待状を出したはずなんだけどね?どうやら六人しか来ていないようだね」 女官長:「それが鳩メールが入ってまして……仙女ミーナは急用が入ったので少し遅れるそうです」 妃:「Uh, lala…彼女のことだから、きっとまた途中で新しい雑貨屋さんでも見つけて寄り道してるんじゃなくって?わたくしのおめでたい席にこんなだなんて、まったく相変わらず失礼な方よね」 女官長:「まぁ……否定は出来ませんね」 王:「ああダメだよハニー。そんな顔をしたらせっかくの美人が台無しだよ。それに彼女はもしかしたら君へのプレゼントをギリギリまで時間をかけて選んでいるのかも知れないしね?」 妃:「そ、そうでしょうか……」(←ちょっと嬉しそうに) 王:「ウン、そうに違いないよ!――――それじゃあフェアリーズ!早速ボクたちのプリンセスに限りなき祝福を捧げてくれたまえ!もっとも既にこれ以上ないというくらいに注がれているけれど、こんなビューティフルなトレンドに乗らないのはもったいないからね!」 女官長:「……ちょっと陛下。この話、一応ドイツ辺りを舞台にしてるらしいから、英語を多用するのはどうかと思うんですけど」 王:「そうかい?ボクはちっとも気にしない。(←モブから「気にしろよ」と小さくツッコミ)心が望む言葉を紡ぐ方がよっぽど素敵だと思うからね!」 女官長:「はぁ……」 ナレーション:『王様もお妃様も本気で全く気にしていないようなので、女官長は深い深い溜息をつきました。周りの仙女たちは女官長に同情しましたが、そんな事をしてても話が先に進まないのでサクサクと祝福を贈る事にしたようです。一列に並んでそれぞれが小さな姫君に魔法をかけていきました』 仙女1:「この姫は、大人になってもこの美肌を保った極上の素肌美人になるでしょう」 仙女2:「この姫は、世が世ならノーベノレ賞全種を受賞できるほど賢くなるでしょう」 仙女3:「この姫は、気品パラ1,000は越すくらいの淑やかな女性になるでしょう」 仙女4:「この姫は、ダンスオンリーで食べていける程ダンスがお上手になるでしょう」 仙女5:「この姫は、ソプラノ・リリコな天上の声でもって歌をお歌いになるでしょう」 仙女6:「この姫は、世界中のあらゆる楽器全てをいとも簡単にお弾きになるでしょう」 ナレーション:『……このくだりはフランスのペロー版を参考にしたんですけどね、なんとも健康に関する意見がないのが気になります。どうやらこのお二人の御子であれば何となくその辺は大丈夫だろうと仙女たちは考えたようですね。実際気付いてないのか王様とお妃様も、実に満足そうに頷いてますし。 ま、それはともかく仙女が一通り祝福を述べた――――――その時です』 ――――バァン!! 突如として窓の外が荒れ狂い、暴風や雷鳴と共に大広間の窓の一つが開く。 その窓からゆらりと……もといキビキビと、まるで直定規を背中に差したように、一つの影が姿を現す。 ???:「……このような席に私を呼ばないとは、なんと失礼極まりない……」 影にスポットライト。 マントと女物のローブに身を包んだ踝まで伸びる長い髪の女(?)が額に青筋を立てて憤然と仁王立ちになっている。 王、その姿を見て非常に驚いたリアクション。 王:「あっ、あなたは――――ッ!!」 叫んでそのまま黙ってしまった王に、周りもゴクッと息を飲んで見守る。 ――――が(鼻濁音で)。 王:「(ナチュラルに)……誰だろう?」 ズコッと全員、コケる。 王、少し考え込むようにしてから女官長を振り返る。 王:「ウ〜ン、ボクのメモリアルには載っていない顔だね。女官長、知っているかい?」 女官長:(首を振って)「いえ、私も記憶にはありませんけど」 それを聞いて、現れたやたらと背の高い女(?)、眉を思いっきり顰める。 ???:「なんだと!?アイスツィマー山に洞府を構えるこの稀代の仙女、メルツェーデスを知らんと言うのか!?――余談だが、姓はベンツにしたかったのだが続けて表記すると商標登録に引っかかってしまうので、ファーストネームのみで失礼する」 ------------------------------------------------------------ 高らかに名乗る仙女@氷室を目の当たりにして、会場内の生徒が一気に押し黙った。 「ヒムロッチ……なんちゅう安易なネーミング……」 「それに仙女って……口調いつものまんまじゃん……ノリノリだし」 「しかも何、あのカッコ……ププッ!」 どうやら鈴木の狙い通りウケは取れたようだ。色んな意味で。 それはまあ薄紫色のロングの縦ロールをなびかせて、これでもかと言わんばかりに女性的デコレーションをしたローブに身を包んだフルメイクの188pの色白大男なんぞ、コワイを通り越して喜劇以外の何者でもなかろう。 鈴木もよく口車に乗せたものである。 ちなみにキャラのネーミングは鈴木がフィーリングで勝手に決めたので氷室には罪はない……はずだ。 ------------------------------------------------------------ 名乗るのを聞いて、女官長は何かを思い出すように首をかしげる。 女官長:「アイスツィマー山のメルツェーデス……そういえば」 妃:「知っているの、女官長?」 女官長:「確か、50年ほど前に音信不通になってから一度も人前に姿を現さないんで、もう死んだか自分の魔法でうっかり消滅したかって言われていた仙女が、そういう名前だったと思うけど」 仙女メル(以下略):「そう、そのメルツェーデス本人だ。だが私は死んでなどいない。研究に打ち込むあまり、気がついたら50年ほど過ぎていただけの事だ。(←モブ、小さく「打ち込みすぎだよ」とツッコミ)それを死んだだの自滅しただのアルツハイマーだのと憶測のみで判断かつ断定するとは、失礼にも程がある!その上、このような席において招待状の一通も送ってこないとは、不手際な事この上ない!」 仙女メル、プンスカプンと膨れっ面。王は大きな嘆息と共に頭を押さえて反論。 王:「そうはいいますがレイディ、あなたが姿を見せなくなったのは50年前。その頃ボクはボク自身のアミノ酸の欠片すら形成されていなかったのですよ?あなたのことを知らなくても仕方がないとは思われませんか?」 ナレーション:『まったくです。 にしても『レイディ』ってアナタ、なんか絶対間違ってると思うんですけどいいんですかね?』 仙女メル:(無視して)「私が言いたいのはそういう事ではない。たとえ面識がなかったとしても、国内に住む全居住者の正確な生存調査を怠るべきではない、と言っているのだ。たとえば、君は『どこそこの誰が行方不明になった、どうやら死んだらしい』という曖昧な誤情報でもって戸籍を事実と異なるものに書き換える事を是とするのか?」 王:(考え込むように)「……ふむ、言われてみるとそうかも知れないね」 仙女メル:(満足そうに頷く)「そうだろう。国王たる君がそのようにいいかげんな事では国は成り立たない。よって国を支える者の在り方を省みる為にも、王並びに妃には反省文100枚を明朝8時までに提出してもらう!!」 妃、ギョッとしたように仙女メルを睨みつける。 妃:「えぇ〜〜〜!?どうしてわたくしまで書かなきゃいけないのよぉーッ!」 仙女メル:「王の傍にあって王を諌めるべきはまずは妃だろう。その責任は王と同等だ。無論、この場にいる他の者に関しても反省文50枚の提出を申し渡す!」 モブ:「「「なんだってぇーーーッッッ!!?」」」 今度は臣下達から盛大なブーイング。「冗談じゃねー!」「零一さん、私無関係です!」等々。 そこに冷静な女官長の待ったがかかる。 女官長:「お待ちください!仰る事はよく理解できますし、心から反省いたします。しかしここにいる全員が反省文を書くとすれば、その紙代はバカになりません。この時代の紙がどれだけ貴重かお分かりでしょう。用意するには国民の血税を多額に渡って使わねばなりません。それでは国を支える上で本末転倒なのではありませんか!?」 女官長が述べると、周りの人間も「その通りだー!」「反省文なんて実生活だけでこりごりだー!」と同意。 もっともな意見に、仙女メルしばし考え込む。 仙女メル:「……確かに。――――よろしい。では国の代表者としての王と妃のみに、ある罰を与える事としよう。元々今回の原因は君達の不手際にある。不手際には不手際にふさわしい罰というものが必要なのだ。まったくこの私を招待しないとは……ブチブチ」 ナレーション:『……どうやら結局のところ、パーティーに呼ばれなくてぶんむくれているだけのようですねぇ』 仙女メル:「そんな事はどうでもよろしい!――――そう、元々の原因……君達のその姫君にこの仙女・メルツェーデスが魔法をかけてやろう。この姫は15歳になったその日、糸紡ぎ機の紡錘にその手を突き刺されて死亡するだろう!!」 モブ:「「「ちょっと待てぇーーーッッッ!!」」」 その場にいた全員、ツッコむ。 モブ1:「なんだそりゃ!!逆恨みもいいとこだぞオイ!!」 モブ2:「そりゃ魔法じゃなくて呪いだろ呪い!」 モブ3:「てかなんで糸紡ぎ機!?錆だらけの鉄クギ刺して破傷風で死ぬ、とかいうなら解るけど、なんでよりによって木!!」 招待客の面々が地を出しまくりでツッコむも、仙女は悠然と構えている。 仙女メル:「私としても非常に疑問に思うところだが、原作がそうなっている以上変える訳にはいかないのだ!――――コホン、では私はこれで失礼する!王よ、そして王妃よ、自らの犯した罪をとくと反省するがいい!ワーッハッハッハッハッハッハ!!」(←モブ「あれ、仙女にした意味あんのか?」とツッコミ) 言い放って、入って来た時と同様、唐突に仙女は雷雲と共に窓から去って行く。 王、ガックリと膝をつく。 王:「なんてことだ……!ボクが迂闊だったために、姫にあんな呪いをかけさせてしまうなんて……!!」 妃:「陛下……。いいえ、陛下のせいではありませんわ。陛下が領地のお仕事で忙しい分、わたくしがそれを補わなければならなかったのですもの。50年も前に干からびた仙女のことなどすっかり忘れていたわたくしがいけないのですわ……」 王:「ああ、そんな顔をしないで、マイネリーベ……。そう、やはりボクがいけないんだ。戸籍の正確な調査を怠ってしまったこのボクが……」 そこに女官長、冷静に眼鏡のフレームをカチャリと上げながらツッコミ。 女官長:「お言葉ですが陛下、仙女の方々の戸籍は元からありませんけど」 しかし王と妃はそのまま不幸を一身に背負ったような顔で落ち込む。 王:「陛下……」 妃:「ハニー……」 女官長:「……ダメね、これは」 二人だけに青のスポットライト、BGMは『(なぜか)白鳥の湖・哀しみアレンジ』。 舞台の上が哀しみと呆れに包まれる中、上手側からバタバタと駆け込んでくる慌しい足音が聞こえてくる。同時に七人目の仙女ミーナ登場。場違いなくらいに原色バリバリの派手な衣裳の事。 仙女ミーナ(藤井):「ゴッメーン、遅くなったナリ〜ッ!!――――――って、なにやってんのアンタたち!?」 登場したと同時に、舞台の上のただならぬ雰囲気にギョッとして後ずさる。 えらく疲れた様子の女官長が気づいて彼女に声をかける。 女官長:「――――ああ、本当に遅かったわね。何してたの?」 仙女ミーナ:「え?あ〜……ちょっとね〜、久々に町に降りて来たらなーんかカワイイお店増えてるじゃん?ついつい足止め食っちゃって……」(←思いっきりバツ悪そうに) 女官長:「フゥ……予想的中ね」 仙女ミーナ:「あ、なにその溜め息〜!アンタね、いくら幼なじみだからって、一応アタシは仙女なんだよ?そりゃまだ駆け出しの新人だけど、その態度はちょっとどーかと思う!」 女官長:「仙女らしく振舞ってくれるならこんな態度にはならないわよ」 仙女ミーナ:「ちぇっ。……にしてもさ、一体何ごと?コレ」 女官長、仙女にかくかくしかじかと説明する。 仙女ミーナ:「……ええぇ〜ッ!?なにそれ、アイツってばそんなことしたのー!?うっわサイアク」 女官長:「まったくだわ。これだったらまだ反省文の方が良かったかしら……」 仙女ミーナ:「ん〜、でも税金使っちゃうとそれはそれでやっぱマズイって。とはいっても、このまま放っとくワケにも…………あ、そうか!」 仙女、未だ床に膝をついて哀しみを謳っている王と妃のもとに駆け寄る。 仙女ミーナ:「ちょっとちょっと、王サマもお妃サマもしっかりしてってば」 王:「……ん?ああ、キミか……久しぶりだね……。ゴメン、今のボクにはキミを歓迎できるほどの元気がないんだ……」 妃:「わたくしもよ……って、ちょっとあなた、もしかして今ごろ来たの!?Incroyable(信じられない)!なんってルーズなの!」 仙女ミーナ:「……あ〜、それはちょこっとおいといて。――あのさ、さすがにアタシの力じゃあの古ダヌキ……いや古ギツネ?まぁどっちでもいいか、とにかくアイツの魔力を全部打ち消すのは無理だけど……『死ぬ』ってトコだけを変えることはできると思うんだよね」 王と妃、ハッとしたように仙女の顔を見上げる。 王:「……本当かい?」 妃:「……本当に?本当に何とかできるの?嘘だったら国外追放しちゃうんだから!」 仙女ミーナ:「あのねぇ、こんな時にそんな冗談言わないって。ま〜アタシの今のレベルだと…………そうだなぁ、せいぜい百年の眠りに短縮する程度だな〜」 妃:「百年の……眠り……」 仙女ミーナ:「ウン……それ以上はムリ。アタシは駆け出し、あっちは年齢不詳の妖怪オババ(?)、力量考えたらそれが限界なんだよね〜。ま、寝てる間は不老にする、ってのもできるけどさ」 妃、再び顔を伏せる。 妃:「百年って……死んでしまうのとどっちがマシなのかしら……」 妃とは反対に、王は何かを決心したように瞼を閉じる。 王:「……いや、でも生きてさえいれば、きっとその道行きに光が差すこともあるはずさ。なにしろ、このボクたちの娘なんだからね」 妃:「そう……そうですわね……」 王、哀しみを吹っ切るように面を上げて仙女を見上げて立ち上がる。妃も姫を抱きしめたまま同様に。 王:「お願いするよ。どうかこのボクたちの大切な宝物に、キミの精一杯の祝福を贈ってくれないか」 仙女ミーナ:「オッケー、まっかせて!(そこで初めて姫を見る)……うっわカワイイ〜!わわ、アタシこんなカワイイ赤んぼ初めて見た〜♪ほっぺぷくぷく〜、あーもうカワイイ〜ラブリ〜キュート〜!!」 仙女、思いっきり蕩け顔で赤んぼ(人形)を突っつく。 >仙女ミーナ用特記:東雲ちゃんのメイド服姿を思い出すこと。 妃:「――――ちょっと!その前にすることあるでしょ!!」 仙女ミーナ:「――ハッ、ゴメンゴメン。マジ可愛すぎて理性吹っ飛んじゃった。あーでもアレだ、こ〜んなにカワイイ子に百年の眠りだけじゃなんだし、おまけもつけちゃおっと。おねーさま方、悪いけどちょっと魔力分けてくんない?」 仙女ミーナは先に来ていた六人の仙女を呼んで、その力を借りるらしいまじないをウンタラカンタラと唱える。 アンビエント系の幻想的なBGMが流れる中、特殊効果の光が姫を包む。 そして次のセリフ。 仙女ミーナ:「この姫は、確かに百年の眠りに落ちてしまいます。けれど、姫を心から愛する者が現れたその時には、姫の眠りはすべて解かれることになるでしょう――――――」 照明、フェードアウト→暗転。 妃:「ちょっと!」 完全に消えた所で妃のセリフ。再び照明が点く。 妃:「それってどういうこと?勝手にこの子の婚約者を決めないでちょうだい!」 仙女ミーナ:「え〜だって、こういうのはお約束じゃん。ここで原作通り『王子サマ』なーんて決めつけなかっただけいいでしょー」 妃:「Ce n'est pas une plaisanterie(冗談じゃないわ)!この子にはねぇ、陛下と同じくらい素敵な男性じゃなきゃつりあわないのよ!?当然身分は侯爵以上、容姿も頭脳も財力も何もかも!人の何倍も秀でていなくちゃ認めないわ!」 仙女ミーナ:「アンタねぇ!侯爵以上って言ったらハッキリ言ってオッサンかじーさんだよ!?そんなの覚醒肉体年齢15歳の乙女にあてがうつもり!?こっちこそ信じらんない!!――てか陛下もそうだけど、この舞台一応ドイツって設定なんだからフランス語は禁止!」 妃:「ドイツって言ってもなんちゃってドイツでしょ!大体ドイツ語もわからないあなたにそんなこと言われたくないわ!」 仙女ミーナ:「アンタこそ、ドイツ語知らないからフランス語しか喋んないんじゃないの〜?」 妃:「なんですってぇ!?このわたくしによく言ったわ!」 仙女ミーナ:「なによ、やろうっての!?」 周りの面々が呆れて頭を押さえる中、再び照明、フェードアウト。 女官長:「まったく……本当に昔っから変わらないんだから……」 ナレーション:『昔っからこんなアホなことしてたんですか、あんたら。(←冷静にキッパリと) ――とまぁ、なんか長くなってしまいましたが、こんなことがあったりなんかして、物語は本題に入っていくわけですね。 このくだりは、事実確認を怠ったら後でエライことになる、という教訓ですよ皆さん。お互い気をつけましょうね〜!』 ------------------------------------------------------------ 舞台が暗転する中明るく響くナレーションに、会場内の観客の九割方が何とも複雑な面持ちで首をかしげた。 「尽君………なんて言ったら良いんでしょうね、これは」 「そーだなぁ……アレンジもいいとこ、ってヤツ?てか奈津実お姉ちゃんが言ってた呪文ってさあ……」 「エロイムエッサイムエロイムエッサイム、我は求め訴えたり……でしたね」 「ぜったいなんか違うよな……」 まったくである。 というより……本当にこのまま書くつもりか筆者? |
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