−第20話− |
春休みが終わった新学期、校内掲示板の前には多くの生徒達が群がっていた。 張り出された新しいクラス表を見ては喜んだり落ち込んだりと、一時雑多な感情の坩堝と化している。 そしてご多分に漏れず、彼ら彼女らもその最中にあった。 「やったぁーーーっ!!杉菜、今年は一緒のクラスだよーーー!!」 これでもかと喜んで隣の杉菜に抱きついているのは藤井だ。 「そうだね」 「えっへへ〜、一年間よろしくね♪へへん、いーだろー悔しーだろーうらやましいだろー」 「やかましわ!……ったく、ただでさえ杉菜ちゃんと別のクラスやっちゅうのに、何が悲しゅうてまたも和馬なんちゅうムサくるしい熱血バスケバカにお付き合いせなあかんねん」 「そりゃこっちのセリフだぜ。しっかし……まいったよなぁ」 「ああ、メガネくんとも別れてしもたし、こら今年一年補習は免れへんな……」 「だからいつも言ってるじゃないですか。他人のノートを頼るより自分で勉強した方がいいですよって」 「とか何とか言うてるくせに、いざとなったら面倒みてくれてたやないか〜」 「守村くんは優しいから……。でも、それにつけこんでいるのはあなた達でしょう?」 「……有沢……そりゃキッツイぜ……」 一年の時は比較的固まっていたGSメイトの面々だが、今年は少しバラケ気味になったらしい。 「す、鈴鹿くん元気出して……。でもよかったぁ、同じクラスの友だちが一緒で。また一年よろしくね、有沢さん。守村くんも」 「こちらこそよろしくお願いします。有沢さん、今年はちょくちょく勉強会ができそうですね」 「え、ええ。守村くんと一緒だと勉強もはかどるし、私こそ、その、よろしく」 ほんわりムードが漂うのは守村・有沢・紺野。この3人は同じE組だ。 「けどあれだよな。俺たち二人がまた同じクラスってのはナンだけどよ、氷室が担任じゃなかったのだけはラッキーだよな」 「甘いわ和馬!氷室センセはお隣のクラスの担任やで?十中八九まちがいなく、数学担当は奴や!!担任やないからいうて大目に見てくれるお方やない!」 「だぁぁぁーーーっ!!せっかく人が少しでも気を紛らわせようとしてんのに、余計なこと言うなーーー!!」 「まあせめてもの救いは杉菜ちゃんも隣のクラスやちゅうことくらいやなぁ……トホホ」 苦々しい表情で互いの1年を予測して嘆いているのはB組になった姫条・鈴鹿の補習コンビ。 「なっさけないなー!アタシはあるイミ念願の氷室学級だもんね、この機会にバンバン『ヒムロッチをギャフンと言わせよう委員会』の活動を推進するぞー!――あ、杉菜には迷惑かかんないようにするからね☆」 「そう……?……頑張って」 感情発現で両極端な藤井・杉菜ペアはA組、担任は氷室。これから一年騒がしいクラスになること必至だろう。 「C'est tres regrettable(なんて残念なのでしょう)!色サマと別々のクラスなんて、ミズキは哀しいですわ……」 「うん、その気持ちはもっともだね。けれどボクは自由な鳥、誰だろうとボクを独占できるものはいないんだ。ああ大丈夫!ボクはこの世界にはばたく華麗な翼、人々がミューズの恩恵を感じるとき、そこにはいつだってボクは佇んでいるんだ。その歓びを忘れなければ寂しさなんて吹き飛んでしまうよ」 「色サマ……。ええ、その通りですわ。ミズキとしたことが、一時の哀しみに心奪われて大事なことを忘れていましたわ」 何気にこの場にいてどっかの世界をはばたいているのは三原と須藤。去年は一緒だったが今年は別。三原がDで須藤はFだ。 ―――― そして、今のところ出て来ていない彼はといえば……。 「…………ちょっと、そこのお兄さん。さっきからその恨みがましい視線、かーなーりー気になるんですけど?」 「……気のせいだろ」 「んなワケないっしょ?!アンタねぇ、杉菜とクラス離れたからって、アタシを怨むのは筋違いだっつーの。文句があんなら先生に言ってよ、先生に」 「……………………」 さっきからほとんど話さずムスッと不機嫌オーラを放出しているのは葉月。今年は見事に杉菜と離れてしまった。しかもよりによって杉菜のAから一番遠いF組だ。昇降口からの経路も反対方向、今までと違ってなかなか会えなくなってしまう。 クラス替えは自分の意思ではないが故に八つ当たりの矛先が藤井に向いたようだが、向けられた藤井も黙っちゃいない。当たり前だろう、理不尽すぎる。 「……まあ気持ちは解るけどさ。杉菜も葉月と離れて少しは寂しいだろーし。でしょ?」 すると杉菜は小首をかしげて考え込むように答えた。 「……べつに、寂しいとか、思わないけど」 「…………は?」 「だって、同じ学校で、同じ校舎で、同じ階でしょ?変わらないと思う、1年の時と」 「杉菜……アンタ、それ、結構イタイよ……」 「そう……なの?」 らしいんだが、解っちゃいるが、それにしたって惚れてる身からすればツライセリフである。 皆に沈黙が訪れた中でこっそりと葉月を見れば、ほんのり傷心度が上がったようなそうでないような実に読み取れない表情。 (この二人、ほんっとうに進展しないなぁ……) 葉月の方は完全にときめき状態に達している。視線を向ける対象がほぼ一日中固定されていることからも充分バレバレ、確実なこと極まりない。 が、想われ人の杉菜の方は万事この調子。葉月に対する友好度はかなり高いと思われるのだが、肝心のときめき度がサッパリ判らない。 葉月も葉月で素直に好意は示すものの、杉菜の負担にならない程度でセーブする。見ていると独占欲も強そうなのに、我慢している様子が窺える。 (進展……つってもそれも難しいとこだけど、さ) 葉月と杉菜の仲が進展するということは、確実に姫条が振られるということ。 友人の幸せを願いそれが叶えば、それは想い人の不幸に繋がる。 そしてそうならないことには、自分の幸せが巡ってくるチャンスもない訳だったりして。 (あ〜もうグチャグチャじゃん、ホント。姫条一人が不幸になれば問題ない、ってのどーなのよ、ソレ) 頭の中で乾いた笑いを浮かべつつ、藤井は杉菜に改めて抱きついた。抱きつきついでに葉月にひらひらと手を振る。 「ま、いーや。校内では杉菜はアタシがしっかり守ってるやるから、アンタは他んトコで守ってやんなさいよ。……最近はうるさい『虫』も増えてきたことだしさ」 虫、の一言をひそかに強調する。気がついたのか、葉月がほんの少し眉を寄せて頷いた。 「わかってる……。……ああ、虫っていえば」 「ん?」 「そこのチャバネゴキブリ。くれぐれも近づけないように」 その瞬間、再び場が静寂に満たされた。やがて笑いをかみ殺すように声を絞り出したのは藤井である。 「チャバネ…………てアンタ、ソレ……っは、ははは、あっははは!!ひ、ヒドイたとえ!でもわかる!うまい!的確!」 「へ―――て、ちょい待ち!チャバネゴキブリてオレのことかい!?」 「茶色いだろ、おまえ」 「葉月!!自分、こともあろうに人間サマをゴッキーにたとえるっちゃどーゆーこっちゃ!虫なら虫て素直に言うたらええやろ!てかせめてカブトムシとかクワガタにしとき!」 「アッハハ……お、落ち着きなって、姫条。葉月なりに、杉菜の心配、クフフ、してんだから、くっ、ププッ」 「笑いながら言われて説得力も何もあるかい!―――て、なんでみんなして笑っとるんやーッ!」 姫条の言葉通り、その場にいた勉強及び運動コマンドペアの4人は揃って肩を小刻みに震わせている。鈴鹿なんぞは壁に寄りかかって腹を抱えて泣き笑いときた。芸術コマンドペアはさすがに出された固有名詞に不快感を示しているが、内心藤井と同様的確な比喩だと思っているかも知れない。 「オッケーオッケー、このイチバン厄介な虫は特に気をつけまーす!杉菜も気をつけなよ?葉月がここまで心配するほどの『虫』なんだからさー♪」 「……何を?」 「杉菜ちゃん!余計な冗談は聞き流してしまってOKやからな!こいつらの言うこと、信用して守ったらアカン!」 笑い声と嘆き声が響いて、大層賑やかである。そしてさすがにこれだけ騒がしいと、彼が背後から近寄ってくるのも当然だ。 「―――君たち、こんな所で固まって何をしている」 「ゲ、氷室!!……センセイ」 「おはようございます、氷室先生」 「せんせい、おはようございまーす」 唐突に現れた氷室に各自朝の挨拶を口にする。 「おはよう。諸君、クラス表を見たなら直ちに教室に行きなさい。いつまでもここにいては他の生徒に迷惑だろう」 「それもそうですね。ではそろそろ行きましょうか」 「ああ、だな」 氷室の登場によって歓談は終結、GSメイトの面々はそれぞれの教室に向かうことに相成った。 「杉菜」 藤井達と連れ立って別方向の階段へ向かう杉菜に、ふと葉月が声をかけた。 「―――何?珪くん」 立ち止まって振り返ると、杉菜は葉月の顔を見上げる。 「何か困ったことがあったら、いつでも呼べよ」 「え……」 「いつでも、俺、おまえのそばに行くから。だから、何かあったら、必ず呼べ。いいな?」 「……珪くん」 「それじゃ」 それだけ言って、葉月はくるりと背を向けて反対方向の階段へと向かう。杉菜を囲む姫条・鈴鹿・藤井の3人はこれ以上ないほどの呆れ顔である。あんまりな比喩をされた男子1名は更に不愉快モードも発動しているが。 「あ〜あ〜ったくさ〜、完っ全に杉菜以外無視してるんでやんの」 「っんとに変わったよなぁ、葉月のヤツ。俺、あんな奴だとは思わなかったぜ」 「どんなヤツやろうとオレをゴッキー呼ばわりしたいけすかんヤツには変わりないやん。ホンマムカツクわ」 「根に持ってんじゃないって。単なる言葉のアヤじゃん。――――――杉菜?」 ふとボーッとしている様子の杉菜が気になって、藤井は声をかけた。 「どしたの?―――あ、ひょっとして、葉月の言葉に感激しちゃった?」 「……あ、ううん、そういうんじゃ、ないけど……」 「?」 「杉菜ちゃん?」 「東雲?」 同じように気づいた男2人も声をかける。が、杉菜はすぐに首を振る。 「なんでもない。行こう」 「え?あ、うん」 そのまま再び階段へ向かう。 (…………変なの) だって、同じ学校で、同じ校舎で、同じ階で。 変わらないはず、何も。 変わらないのに、何も。 なのに。 立ち去っていくあなたの背中を見たくないって、思うなんて。 …………ふしぎ。 一方。 「まったくもう〜!どうして同じクラスなのが色サマじゃなくて、よりによってあなたなのかしら!せめて東雲さんだったら、百歩譲って許してあげたっていうのに!」 廊下を歩きながら、須藤が葉月に悪態を吐いた。三原は一旦アトリエに寄ってくると言い残して踊り去ってしまったらしい、タイミングの問題で何となく一緒に教室に向かう羽目になってしまった。 須藤の八つ当たりに葉月はムスッとする。 「…………それはこっちのセリフだ」 「なぁに、その言い方!本当に失礼な人ね、あなたって。そんなふうに傍若無人にしてて、東雲さんに嫌われても知らないから」 「……………………」 「な、なによ、その目は!ちょっとした冗談よ!?大体あの東雲さんがあなたを嫌うはずがないじゃない。もっとも、誰かを嫌いになる東雲さんなんてミズキには想像もつきませんけど」 「……まあな」 「あら、葉月くんもやっぱり東雲さんのことになると素直なのね?わからなくもないけど。なんといっても東雲さんはこのミズキのmon amieですからね」 「それ……理解できないけどな。……おまえ、あいつのどこが気に入ってるんだ?」 「これはまたnon-sensな質問ね。東雲さんは色サマやミズキと同じ、選ばれた人なのよ。選ばれた人間には選ばれた人間にしか解らないsentiment……つまりフィーリングがあるものよ。だからだわ。―――それ以前に、感情や感覚に理由をつけるなんて無意味なことだと思わない?」 「…………」 「自分が『いい』とか『綺麗』とか思ったことに理由付けしたって、思ったっていう事実には変わりはないのよ?その辺をミズキはちゃ〜んと理解してますからね、むずかしく考え込んだりはしないの。ただ感じたものがあって、それを『好き』だと認めた、それ以外の理由がなにか必要?」 何だかんだ言って須藤も三原や杉菜と離れて寂しいのだ、葉月相手に珍しく饒舌になっている。 「いや……必要ないな」 「soit(よろしい)!あなたも少しは人の話を聴けるようになったのね。いい傾向だわ。それも東雲さんの影響かしらね?」 須藤はそう言ってさっさと一人教室に入って行った。 影響といえば、そうだろう。 頑なに自分を閉ざしていた時期もあったが、杉菜に出会ってから少しずつその殻が溶けてきている気がする。まだまだほんのわずかだが。 痛みだらけの、殻。 それを和らげ溶かしてくれるれんげ草のような、彼女。 笑うわけでもないのに、傍にいるだけで包まれる暖かさを感じて幸せになれる、特別で、不思議な存在。 葉月はふとA組の方向を顔を巡らせれば、遠目に杉菜が教室へ入るのが見える。 寂しいって思われないのは辛いけど。 追いかけて、傍にいたいけど。 『だって、同じ学校で、同じ校舎で、同じ階でしょ?変わらないと思う』 別の部屋、別の空間。けれど、必ずどこかで繋がっている。だから、今は。 複雑な気持ちのままドアに手を掛けようとした時、葉月は背後から近付いてくる足音に気がついた。 「……だるまさんが、転んだ」 授業もなく、HRも滞りなく終わった放課後、杉菜と藤井が廊下を歩いていると、突然杉菜がポツリと言った。 「―――ハイ?」 「……なのかな?」 「なにが」 「後ろの気配」 「後ろの気配〜???」 意味不明の言葉に反応して藤井が後ろを振り返るが、特にこれといって不穏な人物は見当たらない。 「別に怪しいヤツはいないけど?」 「一つ先の階段、壁の影にいるみたい。男の子。変な視線、感じる」 「男ぉ〜?あーまたアンタ目当ての身の程知らずなんじゃない?―――って、いつから?」 「朝から、休み時間のたびに」 「ゲッ、それストーカー系じゃん?!ちょっとヤバイよ。よし、アタシがナシつけてくる!」 「……べつに、変だけど危ない視線じゃないし、放っといても大丈夫だと思う」 「ダメダメ、こういうのはとっとと捕まえてちゃんと対処しないとあとあと大変なの!ったく、こういう時こそ葉月犬がそばにいてくれりゃいーんだけどなぁ。―――あれ?」 杉菜言うところの『変な視線の男の子』をとっつかまえようと歩を進めた藤井だったが、そこから聞こえてきた声で足を止めた。 「何してんねん1年ボーズ!杉菜ちゃんのストーカーたぁエエ度胸しとるやないか!?」 「ち、違うんス!誤解ッス!ジブンはストーカーなんかじゃないッス!」 えらくドスの効いた関西弁で恫喝されて、相手はすっかり怯えているようだ。声から推測して、上ずっている分を差し引いてもまだまだ少年の域を出ていないだろう。 急いで駆け寄ってみれば、確かに一年生らしい初々しさの角刈り少年が姫条によって胸倉を掴まれて壁に押し付けられていた。ハッタリ5割の姫条の脅しにあっけなく敗北しているあたり、ヤバイ系の人種でもなさそうだ。 「ちょっと姫条!ストーカーでも一応カタギの人間じゃん。程々にしときなって」 「お、藤井も気付いたんか。せやかてこいつ、ずっと杉菜ちゃんの後コソコソ付けまわっとったんやで?俺の目が黒い内はそないな無法は放ってはおけんわ。一発シメてやらんと」 「誰も脅すなとは言ってないって。程々に脅してシメろって言ってんのよ」 「ほ、程々でもシメられたくはないッスよ〜!!」 「なら、杉菜ちゃんの後追っかけてた理由を吐いてもらおうかい。ホレ、本人の前でしっかり自己弁護してみい」 さすがに姫条の図体には敵わないと見て、彼言うところの『1年ボーズ』はおずおずと杉菜の前に出てきた。というより姫条にどつかれて「アワワ」と言いながらこけつまろびつ引き出された、というか。 杉菜は目の前に現れた少年にしばし視線を向けたが、ふと首をかしげた。 「……だるまさんじゃ、なかったのね」 「……は?なんやそれ」 「杉菜……アンタそれマジボケ?」 何ら表情も変えずに呟いた杉菜に、冷静に藤井のツッコミが入った。 「は?ジブン、ダルマじゃないッスよ?」 「口ごたえやらツッコミやらできる立場やないで、アホ。さっさと白状せんかい」 「は、はい!えっと、ジブン……1年F組、日比谷渉っていいます」 「……日比谷くん……?あ、そういえば去年……」 「あっ、覚えててくれたんスか!?」 「ん?知ってんの杉菜?」 「文化祭の時、交感神経に過度の異常を来たして保健室に緊急搬送された中学生……だったよね?」 「…………」 「……交感神経の過度の異常って……」 そんなに刺激が強かったのか、メイド服。 「は、はい、その節はたいへんご迷惑をおかけしました!!」 「べつに……私には迷惑、かかってないし」 日比谷少年はガバッと音を立てんばかりに頭を下げたが、杉菜は軽く首を横に振る。実際杉菜には迷惑はかかっていない。かかったというなら他のクラスメイトの方がたんまりとかけられている(特に搬送を手伝った男子)。 「……それで、私に何か用?」 「はっ、そうでした!先輩は、あの、葉月先輩と仲が良いって聞きました!」 「?…………仲、いいのかな?」 「アタシに訊くな。てか、アンタ以外に仲いいヤツ知らないって。―――で?葉月に用なら本人の所に行きゃいいじゃん」 「ええ、行ったんスけどダメだったんス……。弟子入りをお願いしたら……『……やめろ』ってクールに断られちゃったんス」 「弟子入りって……葉月にか?なんの」 日比谷はショボンとした顔を一転させて、キラキラした眼差しで叫んだ。 「ハイ、ジブン、一人前の男になるために修行中の身なんス。葉月先輩をとてつもなく尊敬してます!」 「…………尊敬するようなタマか?アレ」 「アタシに訊くな。実態知ってるとアレだけど、傍目にはそうなんじゃない?」 「なに言ってるんスか!クールで天才でファッションもバッチリ!あの人は自分の理想の男ッス!!」 「……それで?」 「というわけで、これからは正々堂々と東雲先輩のことマークさせてもらいます!」 「「なんで!!」」 「え、そりゃ葉月先輩と親しいならあの人の好みやセンスも解るじゃないッスか?ジブン、それを教えてもらうッス!そして葉月先輩のような最高の男になってみせるッス。どうぞよろしくご指導お願いします!」 2人のツッコミの甲斐もなく、ただでさえ杉菜の前で緊張している日比谷の勢いは、本来の性格と相まって留まることを知らない。 「それではジブンはこれで失礼します!―――よぉし!今日もまた一歩前進だあっ!!」 言うだけ言って、そのままの勢いで3人の前から走り去ってしまった。拳を振り上げて気合を入れているのはいいのだが、それが他の生徒に当たりそうになって慌てて謝罪をしている。マヌケである。 「―――アホやな」 「―――アホだね」 呆気に取られていた姫条と藤井が力なく溜息を落とした後、同じ感想を漏らした。 「ストーカーってのとはちょっち違うみたいだけど……杉菜、アンタ何も言わなかったけど、ああいう時はキッパリ断っちゃった方がいいんじゃない?図に乗るよ?あのタイプは」 「……べつに、飽きたら止めると思う。ストーキングは親告罪だけど、今はそれほどのものでもないし」 「……杉菜ちゃん……その考え方危険やて……」 「まったくだよ……」 「そう?あれだけオープンに宣言したし、迂闊なことはしない性格に見えるけど。……というか……」 「というか?」 「……だるまさんが、限度」 クールで天才でファッションもバッチリ、と言えば杉菜もそうなのだが、時々奇妙なボケと鋭さを併発させるこの子も本当に謎な娘である。 「こらアタシらが気をつけるしかないか〜」 「おお、責任重大やな」 杉菜親衛隊の幹部二人はお互いの心持ちを隠しつつ、深い深い嘆息を唱和させたのであった。 |
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