気がついた時には、虚無。
深い静寂の中に僅かに打ち寄せる、あれは、潮騒の響きだろうか。
続いているのは、ただ暗闇のみ。
沈みゆく己の感覚さえも、何処か朧気で。
全てが寄る辺ない漂泊の内だ。
ふと、身を動かそうとする。
自らの『腕』、いや、『腕』と思われる『己』の一部を。
聞こえぬ筈の音が微かに満ちる。
うねり。
波打ち。
泡立ち。
弾けて。
滴る。
再び、『それ』は吸い寄せられて、『己』になる。
決して、『それ』が上へと差し伸べられる事はない。
けれど、幾度も、幾度も繰り返される、行為。
このままでは、駄目なのに。
今の、この『己』では、届く事は、許されていないのに。
それでも、せめて、ほんの少しでも、あの場所に――――――。
触手の様なその黒い『腕』は、闇の中で、もがく。
明けない夜を抜け出そうと、足掻き続ける。
最早手に入らないと、知っていても―――。
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