Momoka's Side


「わあ、綺麗〜〜!」



ふと目にとまったショウウィンドウの中に飾られていた、ウェディングドレス。
大きく肩の開いた、どちらかと言うとシンプルなデザインの上半身に反比例して、
下の広がりはレースをふんだんに使った優雅なものだった。



(カラーのブーケとか、似合いそう)



珪くんと休日に待ち合わせて買い物をしてる最中、不意に目に飛び込んできたドレスショップ。
思わず駆け寄ってぴったりガラスに張り付き、わたしはそのドレスに見入る。
足元をみれば、ちゃんとおそろいのヒールが置いてあってその靴も堪らなく可愛かった。



「こういうの好きなのか?おまえ」



思わず珪くんのことを一瞬だけ(一瞬、だよ?)忘れてドレスに見惚れていたわたしの横に
珪くんが来て、一緒にドレスを見ながらそう呟く。



「うん。女の子!って感じの可愛らしいドレスも好きなんだけど、
こういう、ちょっとシンプルなデザインも好き。
清楚な感じがして、お嫁さんって感じがするもの」



ふーん、と興味なさげな返事。男の子って、そういうものかも・・・。
わたしがいいなって思ったドレスの他にも、たくさんのドレスが所狭しと
並べられていて、予定もないのに思わずじーっと見入ってしまう。

白いふわふわのドレス。
好きな人の隣にならんで、一生に一度の誓い。




『隣』の人と。





「ん?」



わたしの気持ちなんかにこれっぽっちも気付いてない、って顔で、返事をくれる。
なんでもなくないけど、なんでもないよって返事を返してちょっとだけしょんぼり。



「白もいいけど、うすーいピンクも可愛いよね」
「ピンク、か?」
「うん。最近流行ってるんだって。ピンクのウェディングドレス」



ピンクっていってもきついピンクじゃなくて、本当に淡い桃色。
以前なっちんが見せてくれた雑誌に載っていて、あ、こういうのもいいなって
思ったことを不意に思い出した。



「おまえは、白の方が・・・似合う」
「え?」



ガラスが鏡の様に珪くんの表情を映し出していて、わたしはガラス越しに彼を見る。
けれどそれは直に見るよりも頼りなげな色しか映さなくて、わたしはゆっくりと
右に身体を向けて珪くんを見た。




「ドレス。白の方が、イメージ」




言葉に、詰まる。


きっと、なんとも思ってないんだろうけど、一般論なんだろうけれど!
好き、な人にそういわれると、どうしようもなくどきどきする。
しかも、だって、ウェディングドレスだよ?
普通の洋服とかだって「似合うと思う」って言われたらどきどきなのに!

や、でも意識しすぎなのわかってるから、わたしは努めて平気なフリをして
珪くんがそういうなら、なんて言っちゃったり、してみる。



ピンクも、可愛いけど。
白って、特別な色じゃない?



珪くんはそんなつもりとか、考えとか全然なくて、ただ「イメージ」って
言ってくれてるだけなんだけど、やっぱり嬉しい。

本当は、隣で、なんて思うけど。




(ってバカバカっ!わたしったら何考えてるの〜〜っ)




瞬間的に頬が熱くなって、慌ててまたガラスの方を向いて誤魔化す。
ばれてないと良いな。
勝手に喜んで、舞い上がって、赤くなってるなんて恥ずかしすぎるもん。
耳の裏まできっと赤い、から。髪の毛を前にさらりとながしてそれを隠す。



「いつか・・・・・・」
「え?」



自分の気持ちを整理するのに精一杯だったわたしは、珪くんが小さな声で漏らした
一言を聞き漏らす。
きょとんと彼を見返すと、あれ?ほっぺた、赤いの気のせい・・・?

探るようにじーっと見てると珪くんが怒ったように視線をそらして歩き出す。
え?え??わたし何かしちゃった?



「珪くん!」



追いかけて、シャツの背中、掴んで。
そしたら珪くんの手が後ろに伸びてわたしの手を掴む。
そのまま強い力でひっぱられて、危うく転びそうになって珪くんの背中に
とん、とおでこをぶつけた。



「たっ・・・」
「白、好きなんだ・・・俺」



どきん、としたけど。



「あ、珪くんも?わたしも白好きなんだ。やっぱり、自分の時は白、かなあ」



って、痛むおでこを内心さすりながら、折角頑張って頑張って『普通』に返したのに。




「やっぱりおまえ・・・鈍すぎ」




なんて、ため息まじりでそう言うと、わたしに向けていた視線を前に戻して再び歩き出す。
え?えっ?何で、なんでそうなるの??


けれど繋がれた手はそのままで。
心なしが、こもる力が強い気がするのは、気のせい?
どきどきしながら一生懸命考える。
わたしは『白のイメージ』って言ってくれたこと。
白が好きって言ってくれたこと。
わたしも好きって言って、そしたら『鈍い』って。

一生懸命考えていたら、頭上から吹き出すような声が聞こえた。
反射的に見上げると、一瞬だけ目があって珪くんがあっちを向く。



「何で笑ってるの〜〜っ?」
「いや、別に」



別に、なんて顔してないくせに。
きっとわたしが必死で珪くんの「フキゲン」の理由を探してるのを見て、笑ったんだ。
ほっぺたに空気をいれて、今度はわたしが「フキゲン」の意思表示。
そしたらもっと笑うから、本気で恥ずかしくなってきた。



「珪くん、最近意地悪だっ!」
「じゃあヒント、やる」



怒ったわたしをなだめるように、少しだけ目を細めてわたしを見つめる。
とくり、と、胸の奥で「どきどきのモト」が作られる音が聞こえた。




「何年か、先に」




一言一言。とても大切な単語の様にゆっくりと珪くんの口から紡がれる言葉。
瞳の色が、すうっと一瞬濃くなってどきりとする。
言葉を奪うほどの、強い眼差し。





「           」





珪くんの一言が、風の音に阻まれて消える。
乱れる髪を抑えてそれが通り過ぎるのを待ち、再び彼を見上げた時には
いつもの穏やかな眼差しをした彼が立っているだけだった。



「珪くん?」
「ほら・・・行くぞ」



ゆっくりと歩き出した珪くんは、それからしばらく黙ったままで、
わたしも聞き逃した言葉を聞きなおせずにいた。



『何年か、先に』



今、じゃなくて、未来の約束。
言葉は聞こえなかったけれど、それがあるって・・・思ってもいいのかな。
今こうして並んで歩いているように。
珪くんが告げた『何年か先』に、まだ隣にいても・・・いいの?


聞けなくて。


珪くんの言葉を奪った風の名残が残る髪の先を、そっと指で整えた。






Momoka's Side ++END++



この作品は片瀬篠さんのサイト『HappyC×2』において、『サイトオープン半年記念〜SS一緒に書いてください企画〜』の主人公サイドとして公開されていた作品です。
以下の事項を踏まえた上で、参加者が葉月サイドを書く、という企画でした。

  ・片瀬さんのSSの流れをベースにする。
  ・片瀬さんのSSと、参加者のSSで一対。主人公の気持ちは葉月くんには伝わっていない。
  ・主人公の名前は『真中 桃香』で統一。
  ・書き方は王子の一人称もしくは三人称で。
  ・SS中で抜けている台詞は、各自好きな言葉を入れる。
  ・時期・季節・二人の関係の設定は各自の自由。

こちらの主人公サイドにとても触発されてしまい、小宮もいきなりちゃっかり参加させて頂きました。それもかなり滑り込みで(苦笑)
それにしても桃香ちゃん、可愛いなぁ。こういう『女の子』なキャラクター、自分とかけ離れている分愛しい♪
その他の事は手前の書いた『Haduki's Side』のあとがきにありますので、まずは何より片瀬さんの暖かな世界に浸って下さいませ。

尚このSS、企画参加の特典として頂いて参りましたが、フリー配布作品ではございません。
著作権は全て片瀬篠さんに帰属致しますので、ご本人の許可なく無断で転載・改変等なさらないように強くお願い申し上げます。


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