▲BACK
エレベーターの話
私の通ってる大学の校舎に、古びたエレベータが、2つあるんです。
そのエレベータについての話です。
このエレベータの片方に、嫌な噂がありまして。
昔、このエレベーターの中で、学生が焼死したらしいんです。
工業系の大学なので、研究に使う可燃性の材料を持って、数人が乗ったのですが。
頭の悪いヤツが居て、中で煙草を吸い始めた。
それが引火して、という話です。
まあ実際には、そんな事故は無かったと思います。
巷にありがちな『学校の怪談』ってヤツでしょうね。
…ついこの前までは、そう思ってたんですがね…
先日、研究室に泊まりこみをしたんです。
学生の研究ごときで泊まりこみする必要があるのか?
なんて言われそうですが、
貧乏な研究室だから機材少ないんですよ。
だから夜中にならないと使えなくて。
嘘。研究室の連中で麻雀してたんです。
不真面目な学生ばかりでスイマセン>教授
夜食を買いにコンビニに行きました。
その帰り。
夜の校舎は照明が少なくて、どことなく怖いですね。
ちょっとビクつきながら、研究室のある階に戻ろうとエレベータのボタンを押したら…
ドキリ。
凄い早さでエレベータが着いたんです。
押す前は4階。それが一瞬で1階に。
もしかして、周りの電力消費が少ないとエレベータもきびきびと動くのだろうか。
そんなわけないですよね。
更に怖い事に、着いたエレベータは、例の噂があるほうでした。
そういえば自分、これまでそのエレベータは使った事がなかったんです。
動きが遅いというか、もう片方のエレベータが必ず先に動くもので。
たぶんエレベータを動かすアルゴリズムの問題でしょう。
頭悪いヤツがプログラム組んだんでしょうね。
いや。こんな古びたヤツが、コンピュータで自動制御されてるものだろうか。
もしかしてわざわざ回路で実現してるのかな…
…スイマセン。話が反れました。
自分、そうゆう学科なもんでつい。
しかし妙です。なぜ今日に限って…
まあいいや。とりあえず乗ってみました。
ボタンを押そうとして、また、ドキリ。
自分の研究室は4階なんですが。
そのエレベータ、4階のボタンが無いんです。
マジかよ。つーかなんでやねん?
あれ?
さっき4階から来たんじゃないのか…?
なんで4階に止まれるんだ…?
気味悪さを感じながらも、仕方ないんで5階を押しました。
1階分は階段使って降りましょうか。
扉が閉まって動き始めた瞬間。
しまった!と思いました。
落ちてるんです。
上に動くはずなのに…落ちてるんですよ。
一瞬で悟りました。
さっき異常な速度で着いたのは、落ちてたからなんです。
動いていたわけじゃないんです。
このボロ、ついに寿命が来たんです。
コイツは壊れてたんですよ。
嘘だろ! これじゃ地面に激突する!
ここって地下3階まであるのに!
と思ってたら、ガクンと動きが止まり、ゆっくり上へ動き始めました。
一応、エレベータはまだ生きてたようです。
…なんだよ…
…焦ったじゃんか…
だからボロは嫌なんですよ。
大体にしてこの校舎からして、宮城県沖地震で建物の壁一面ににヒビが入り、
倒れる寸前の所をナントカ理論だか工法だかで、鉄骨入れて補強して使ってるんです。
いくら建築科があると言っても、そうやって無理に腕の見せ所を作らなくても…
…妙です。
いつまで経っても着かない。
ずっと上に動いてる。
階を表すランプは?
…消えてる。
やっぱりガタが来てたんだろうか。
たぶんコイツ、もの凄くゆっくり動いてるんじゃないのか。
ランプが消えてるのもガタが来てるからでしょうか。
マズイな。
このまま止まったらどうしよう。
いや。止まるどころか、さっきのように落ち始めたら…
早く出たい。出なければ。
早くここから出してくれ。
ふと、背中に何かの気配を感じ、
後ろの壁に目をやって、一瞬血の気が引きました。
真っ黒な、人間の手のひらの跡があったんです。
結構な数がついている。
それぞれ微妙に形が違うので、おそらく数人の手の跡でしょう。
まさか…例の噂の…
これは焼死したヤツラが壁に手を押しつけた跡では…
そんなわけないですよね。
仮にそういう事故があったとしても、内装ぐらいは変えるでしょう。
たぶんイタズラ好きの学生が、誰かを驚かそうと押しつけたんですよ。
全くもう。こんな非常時に。余計な事しやがって。
それはともかく、遅い…
たしかに、動いては、いる。
上に昇ってる。
でも着かない。
どうなってるんだ…
その時、気がついたんです。
さっき、エレベータが下へと落ちた時、
私はたしかに、地面に激突して死んでいたのです。
そしていつまでも昇り続けるこのエレベータは。
天国への直行エレベータだったんですよ。
道理で随分と昇るはずです。
と、ここで目が覚めました。
そうです。夢オチなんです。
全部夢。どうもスイマセン。
私は別に事故死することもなく、
無事に大学を卒業し、無事にサラリーマンやってます。
たしかに、通ってた大学にはボロいエレベータがあったし、
研究室は4階にあったし、
例の噂も先輩達から聞かされてました。
おそらく、夢の中でそれらの記憶が呼び起こされて、
何故かこんな夢を見てしまったのでしょうね。
出社の時間です。
いつものように身支度を整え、
いつものように部屋の鍵を締め、
いつものようにマンションのエレベータのボタンを…
いや。
今日は階段を使いましょうか。
階段の上り下りは健康にいいと聞きますしね。
…ええ。ヘタレですよ。
夢ごときでなんだか妙にビビッちゃってるチキン野郎ですよ。
どうぞどうぞ。気が済むまで私を笑っちゃってください。
仕事が終わり帰宅して驚きました。
何故驚いたかは今更説明する必要もないと思います。
4階の住人だったそうです。
階段の上り下りは健康にいいって本当でした。
この場合、ちょっと違う気もしますけど。
夢の部分は実際に夢で見たそのまんまなんです。
しかし、この手の才能ゼロの自分にしては、
あまりにオチが上手すぎる。(文は相変らず下手ですが)
たぶん元ネタがあるのだと思います、つーか絶対あるはず。
それをたまたま夢で見たのでしょう。
ただ、どこでこういう話を読んだのか、全然思い出せない…
もしも「これが元ネタじゃないの?」
みたいな情報があったら教えてくださいです。
(2002/10/20)
▲BACK