心のカイロ |
「寒いなー」 「寒いわね」 眉を顰めながら言ったセリフに同じ感想を漏らして、隣を歩く日比谷(妹の方な)はマフラーを巻き直した。 「雪が降ってないから尚の事。月の光が氷みたいね」 「お、詩人」 「たまにはいいでしょ、こんな日だし」 「まーな」 12月24日、クリスマスイブ。はばたき学園中等部の恒例クリスマスパーティが終わり、オレたちは既に暗くなった空の下を歩いていた。 「しっかしまぁ、中等部のパーティって言ったらどんなんだろうって思ってたけど、案外あっさりしてたな。時間もまだ全然早い内に終わったし。てかまだ6時にすらなってないし、やる意味あったのか?アレ」 「そうねぇ。高等部のは理事長宅でやるし、年齢が上がる分本格的らしいけど、中等部じゃこんなところでしょ。けど不満だったら、皆と一緒に街に繰り出せば良かったんじゃない?」 「別に不満ってわけじゃないぞ。そりゃ誘われはしたけど、だからといってハメを外すとあとが大変だし」 そう言うと日比谷はクスッと笑った。 「変なところで生真面目ねぇ」 「褒め言葉としてとっとくよ」 「お好きなように」 てくてく、かつかつと、昼間よりも渇いた響きで並ぶ音。その中に混じる会話。でも不快さは皆無。気を使ったりしないで話せる相手だから、かえってこういう時には都合が良いんだよな、こいつは。 「それにしても、うちは本当に構わないのに。いいの?」 日比谷が話を返る。パーティが始まる前に話していたことだ。 「気にするなっての。それともなに?もしかしておまえ、そういう意味で誘ってる?オレたち中学一年だし、そういう関係はまだ早いんじゃないの?」 「誰が!兄さんの部屋に放り込むに決まってるじゃない。冗談は程々にしないと怒るわよ」 「へいへい。ま、でもマジで気にすんなって。それに第一、イブの夜に日比谷兄と一つ屋根の下どころか一つ部屋の中なんてオゾマシイ状況は、一生ゴメン蒙るね」 「その点は同感」 「ってオイ妹!」 即座に戻って来た強い返答に、思わずツッコんだが。 「――それでも、あの広い家で尽君が一人きり、なんて状況よりはマシだと思うけど」 不意に本気で心配している目で見つめられて、オレは押し黙る。 押し黙って、でもすぐに苦笑した。 「……おまえも玉緒も心配しすぎ」 呆れたように言って、踵を返す。 「平気だって。さすがに2カ月も経ったし大分慣れた。そりゃ父ちゃんも母ちゃんも今日はいないけど、そんなのはオレが物心ついた頃からの習慣だから何とも思わないし。となればオレが留守番するしかない。だろ?外泊はもう少し大人になってからするさ」 「……それはそうでしょうけど、というか最後のセリフもどうかと思うけど、でも」 言いかけた言葉を止めるように、オレは首を振った。おまけに笑顔もつけて。 「大丈夫。サンキュな」 「……ハァ」 言葉を遮られた日比谷は、オレの拒否を聞くと眉を顰めて軽く溜息を落とした。 「なんでそこで溜息?」 「尽君が素直じゃないから」 「素直だろ?人の好意には素直に感謝してるし」 「本当は寂しいくせに」 一人でいる時間が。 言外に込められた意味をそうと受け取って、オレはもう一度苦笑した。やっぱり笑顔じゃ騙されないか、こいつは。 けどさ。 「……素直になったってどうしようもないことってあるだろ。色々と、さ。こればっかりは慣れの問題。少なくともオレの場合はな」 本音の声でそう言うと、日比谷はやれやれという風に再び溜息を吐いた。 「それはそう、よね……。……あ」 気がつけば日比谷の家の前まで来ていた。明かりの灯った、本当の意味での暖かな家の前まで。 「遠回りさせちゃってごめんね。ありがとう」 「どういたしまして。ま、どうせ同じ方向だし、いくら日比谷でも女一人で暗い中歩かせられないからな」 「いくら私でもって言い方が微妙に気に入らないけど、まあいいわ。そうだ、何か夕飯のおかず持ってく?母さんに言えばおすそ分けしてもらえると思うけど」 「いや、いらない。母ちゃんが用意して行ってくれたはずだから、余らせるのがオチだし」 「確かにおば様の料理があるんじゃウチのなんて余るのがオチね。わかった」 門を開けてその敷地に入ってから、日比谷はくるりと身を翻してオレの方を振り向いた。 「それじゃ、またね」 「ああ。来週の玉緒たちとのボーリング、忘れんなよ」 「そっちこそ。次もまたお昼奢ってもらうから覚悟しててね?」 「そりゃこっちのセリフだっての。じゃな」 軽く手を振ってオレは日比谷家の前から立ち去ろうとした。 「――――尽君!」 歩き出そうとして足を踏み出した時、日比谷の声がそれを引き止めた。 「なに?」 顔だけで振り返って日比谷を見ると、玄関からの逆光でおぼろげなものの、笑ったような表情なのが判った。 「May angels' blessing is in you, in this holy night.……おやすみなさい」 ひらひらと。 羽のように振られた手にオレは力を抜いて笑った。 「……You too.おやすみ」 息をするたびに鼻の奥がつん、となって痛い。襟元を掻き寄せても、凍えるような寒さはなかなか拭えず、オレは空を睨んだ。 「ったく、ここまで寒いんならいっそ雪でも降ればホワイトクリスマスで、世の中の恋人たちの受けもいいってのになー。サービス精神ないよなー天気も」 そんなどうでもいいことを一人ごちながら、立ち並ぶ家々と街灯の合間をすり抜けるように、オレは家路を急ぐ。 こうやって暗く冷たい外気に晒されて一人で歩いていると、周りから溢れる優しい、だけど確かな人の気配を感じて、ほんの少し羨ましさを感じる。 『――――本当は寂しいくせに』 ……そりゃそうだろ。 生まれてこの方、この日に一人きりになったのなんて初めてなんだから。 日比谷が言った言葉を思い出して、オレは自分でもそうと判るような情けない息を落とした。 両親は毎年今日の夜から明日の昼にかけて家にはいない。理由はデートだ。 12月25日は父ちゃんの誕生日でもあり二人の結婚記念日でもある。結婚して20年近く経ってもラブラブな二人だし、オレが物心つく頃からその習慣は途絶える事がなかったから、それはもう当たり前の行事。そういう夫婦ってのもいいなって思うだけ。 でもそれは、姉ちゃんがいたからだ。 姉ちゃんは夜7時になると気絶するように眠ってしまうけど、どんな時でも家にはいたし、オレが小さい時には一緒の部屋でオレと一緒に眠ってくれた(あ、これ葉月には内緒な)。父ちゃんも母ちゃんもいなくても、姉ちゃんだけは必ず傍にいてくれてたんだ。今日、この日もそうだけど、普段のなんてことない日にも、ずっとずっとそうだった。 けどその姉ちゃんは2ヶ月前に結婚した。その経緯についてはさすがのオレもちょっと待て!ってな感じだったけど、相手があの葉月だから結婚自体は問題ない。むしろやっと姉ちゃんが幸せになれるんだって思って、すごく嬉しかった。 ただ気付かなかったのは、オレ自身の――――心。 長い間、オレは姉ちゃんをフォローしてるつもりだったけど、今となっては実際は逆だったんだなって実感する。 風みたいで捉えられない姉ではあったけど、確かにオレの支えになってたし、何よりオレを一人ぼっちにすることってなかった。そりゃ学校の終わる時間が違うから、家に帰った時は誰もいないことが多かったけど、必ず姉ちゃんは決まった時間に帰って来てくれて、傍にいてくれた。同じ家の中に居てくれた。 そこにいるという、確かな存在感。それがどれだけオレを支えてくれてたか、以前のオレは解らなかった。 だからこの2ヶ月は違和感との戦いだった。そこにいた人がいないことに慣れるための。 たとえ姉ちゃんや葉月がしょっちゅうウチに泊まりに来てても、姫条や蒼樹がやたらとメシを食べに来てても、それでも、やっぱりどこか違うから。 「結婚して初めてのクリスマスイブ、だもんなぁ。今頃は葉月家でお楽しみってヤツかな〜」 二人とも人込みは好きじゃないから、多分家で寛いでるはず。明日は午後から来るって言ってたけど、明後日から短い新婚旅行で海外脱出するらしいから、そんなに長居もしないだろう。 ……不満なら――寂しいなら、皆と一緒に街に繰り出せば良い。 日比谷はそう言ったし、玉緒も「なんならうちに泊まりに来る?」って言ってくれた。オレの心理状態とかは関係なく、ただ単に一緒に遊ぼうって言ってくれた女の子たちもたくさんいた。 けど、いつもなら乗っていたそれらの誘いを、オレは全部断った。 習慣になってた『姉ちゃんが帰る前に帰っていること』は、それから解放された今でも身に染みて残っていて。中学に入って部活を始めてからなんて帰りが遅くなるのがひどく気にかかるくらいでさ。オレってば思った以上にシスコンだったんだなぁって、しみじみと思ったりしたわけ。 姉ちゃんは姉ちゃんで、自分の居場所を見つけてる。幸せをつかんでる。 オレも早く『今』に慣れて、自分の居場所を見つけなきゃいけないのに、なかなか心は言うことを聞いてくれなくて。ホント、困る。 「寒……」 凛と張りつめた空気は嫌いじゃない。凍えるような夜は苦手だけど、好きになれないわけじゃない。 でもそれは、大切な人の存在があってこそ、なんだよな。 恋人でも、友人でも、家族でも。 ますます寒い考えになってく自分に情けなさとやるせなさを感じて、外灯が点いてるだけの自分の家を思いながら、オレは角を曲がった。 そして――――見えてきた自宅を認めて。 オレは思わず目を見開いた。 「………………!!」 途端に加速を増した体が、もどかしげに速い足音を鳴らす。 駆け込むように門を開け、急いで手袋を外してポケットから鍵を取り出す。 焦って上手く入らない鍵を何とか回して、玄関の扉を開けた瞬間。 「「「メリークリスマス!!」」」 スパパーン、と鳴らされたクラッカーと共に、何人もの声が唱和して、オレは玄関先で呆気に取られた。 「驚いとる驚いとる!バッチリ大成功☆っちゅーヤツやな」 「だね〜。でも正直まさかこんなに簡単に引っかかるとは思わなかったよ、アタシ」 「大丈夫ですか、尽くん。驚きすぎましたか?」 「あ〜、その場合『そんなに驚かせてしまいましたか』の方がエエと思うで」 「うわめっずらし!アンタがマトモな日本語講座するとは、こりゃ世も末?」 「珍しいって何や珍しいって!てか世も末って!」 「その通りじゃねーか」 「……姫条に蒼樹、それに鈴鹿や奈津実お姉ちゃんまで……なんで?」 やっと我に返って、オレは目の前の4人をぐるっと見渡した。そこには姉ちゃん経由で知り合った顔が揃っていた。 すると姫条はいつものようにニカッと笑った。 「オレらだけやないで。キッチンには珠美ちゃんもおるし、リビングではメガネくんや有沢ちゃんが手伝っとるし。三原と瑞希ちゃんは庭に出て月光のもと二人の世界作っとるけど」 「……って、ほぼフルメンバーかよ!」 そう叫んだところで、リビングの方からまた別の人物が現れた。 「ああ、遅かったな」 「葉月ィ!?……ってことは……」 もしかして、もしかしなくても。 「ああ、いる。中に」 その答えを聞いて、オレは急いで靴を脱ぎ手早く揃えてから廊下に上がった。姫条たちを掻き分けるように突き進み、道を開ける葉月の横を通ってリビングへ、そして続くキッチンへと目をやった。 「……姉ちゃん!」 声をかけると、キッチンで珠美お姉ちゃんと一緒に何かの料理を作っている姉ちゃんが顔を上げた。 オレの顔を見ると、一年前には見られなかったかすかな微笑みが生まれて、空気を満たす。 「あ……。お帰りなさい、尽」 「あ、ただいま…………って、一体何してんの姉ちゃん!葉月も皆も!」 「え?クリスマスパーティの用意……だよね、珠美」 「うん。お帰りなさい、尽くん」 「クリスマス、パーティ……?」 よく見ればリビングのテーブルの上には所狭しと並べられたパーティ料理の数々と、いかにもなクリスマスデコレーションのブッシュ・ド・ノエル。ジュースに紛れてこっそりワインや本物のシャンパンが並んでたりもする。 ちょっと待てよ未成年ばっかでなんで酒が出してあるんだよ誰だこんなの買ってきたヤツって姫条しかいないか、とか頭のどこかで冷静にツッコんでいると、玄関から来た姫条がオレの後頭部を軽く小突いた。 「せやせや。こーんな豪勢な料理が並んどる状況で写経始めるワケあらへんやろ。ホレ、はよ服着替えて手ぇ洗ってこんかい。自分待っとってオレもエエかげん腹減ったわ」 「あ、ああ……」 脳内で冷静にツッコむ一方、未だ8割方混乱中のオレは、とりあえず姫条に言われたように部屋に向かう。 部屋に入ってコートを脱ぎ、普段着に着替える。洗面所で顔と手を洗ってからリビングに戻ると、すっかり準備万端といった様子で、それぞれ適当に席に座ったりグラスをに飲み物を注いだりしていた。 「あー、ほらほら尽ってば。そんなところに突っ立ってないで座った座った!」 奈津実お姉ちゃんに引っ張られるようにしてソファに腰掛けて、無理矢理グラスを持たされる。 「っちゅーわけで、全員揃ったところで早速乾杯と行くでー!メリークリスマス!」 「「「メリークリスマース!」」」 姫条の音頭に全員がグラスを合わせる。鳴り合うグラスの澄んだ音で、オレはやっと現状が把握できた。 「なんだってこんな騒ぎになったわけ?せっかくのイブだってのに、いいの?」 皆が絶品の料理と会話で盛り上がる中、オレは隣に座っていた奈津実お姉ちゃんに訊ねた。 「ん〜?高校卒業してからあんまりみんなで騒ぐ機会って無くなっちゃったじゃん?そりゃ二人っきりのクリスマスイブってのも悪くないけど、どうせなら集まれる時に集まろうってね。こうして騒げる家もあることだしさ」 パパさんママさんの許可はもらったし〜? そんなあっけらかんとした笑顔と答えが返ってきた。 「だったら葉月ん家でも良かったんじゃないの?」 「あーダメダメ!あそこん家はなんかシンプル過ぎてバカ騒ぎする気分じゃない!」 「……確かにそーだけど」 何となく釈然としないでいると、ポンポンと頭を撫でられた。 「いいじゃん、こういうイブでもさ」 「そりゃ……」 何か反論しようとして、逆の方から出された小皿に気付いた。 「……姉ちゃん?」 「尽、何か食べる?それとも、空いてないかな、おなか」 いつものように普通に話しかける姉ちゃんがそこに居て。 それは、一緒に過ごしていた時と同じ空気のままで。 だから、オレは。 「……食べる」 「平気?無理しないでいいよ。中等部のパーティで食べてきただろうし」 「ううん。姉ちゃんの手料理だもん、食べないなんてそんなもったいないことするワケないって」 オレはそう言って、姉ちゃんから差し出された小皿を受け取って、次々と料理を平らげていった。 例によって7時に姉ちゃんが一足先に就寝して、皆も9時過ぎくらいまでは騒いでいただろうか。パーティが終わって片付けが済んだ頃には、メンバーはほぼ帰宅して、残っているのは和室で飲み潰れてる姫条とそれに付き合わされてこれまた潰れてる蒼樹、それから葉月くらいだった(奈津実お姉ちゃんは姫条に呆れて瑞希お姉ちゃんのリムジンに便乗してった)。 「良かったのか?結婚後初めてのクリスマスイブがこんなんで」 皿を棚にしまいながら、オレはテーブルを拭いている葉月に言った。 それに返って来たのは、実にあっさりとした響き。 「さあな」 「さあってなぁ。葉月おまえ、クリスマスにかける世間一般のカップルの情熱ってモノを少しは学んだらどーだ?いくらあの姉ちゃんでも、やっぱりロマンチックなデートを楽しみたいと思ってんじゃないの?」 「……その杉菜が言い出した事だからな」 その言葉にオレの動きが止まる。 「……姉ちゃんが?」 「ああ。おまえに負けた」 ついでに言えば、姫条達は杉菜に負けた。 そう言って軽く苦笑する。 「それって」 「わかるから、俺も。残念だとは思ったけど、自分を振り返ったら、それも良いと思った」 仕方ない、とでも言うように葉月はオレを見る。 葉月の過去。その心に刻まれた傷。その痛みは今のオレにはほんの少し理解出来た。 寂しさという名の痛み。 それでも、聞いている葉月のそれに比べたら、オレの寂しさなんて本当に子供みたいなもので、大したことない。 だけど、皆も葉月も姉ちゃんも、オレのことを心配してくれたんだ。 慣れない寂しさに、より強い寒さを覚えずに済むように。 オレは嬉しくなって、だけどなるべく表に出さないように息を吐いた。 「……そっか。悪かったな」 「そう思うなら、慣れてくれるか、居場所を作るかしてくれ。できれば、なるべく早く」 そう言う割には責める色は全く無くて、オレは思わず笑ってしまった。 「了解。家族思いのお義兄サマが欲求不満にならないように、心優しい義弟としては精進致します」 「……その呼び方、止めろ。表現も」 一瞬にしてイヤ〜な表情になったのを見て、オレは一層笑う。 最後の皿を棚に戻して、扉を閉める。同時にテーブルを拭き終わった葉月は台拭きを洗ってから、姉ちゃんの様子を観にリビングを出て行った。 「……サンキュな」 葉月の背中が見えなくなってから、オレは静かに呟いた。 葉月にも姫条たちにも、姉ちゃんにも。父ちゃんと母ちゃんもきっとこの事知ってて騒いでいいって言ったんだろうから、二人にも。 『May angels' blessing is in you, in this holy night――――』 なぁ、日比谷。 聖夜でも、そうじゃない夜でもさ。 大切な人が自分のことを思ってくれるのって、天使の祝福以上に嬉しいことだと思う。 ……いや、そうじゃないな。 大切な人が自分に向けてくれる暖かな想い。 それこそが、天使の祝福っていうのかも知れない。 今のオレには、そんな気がする。 だって、心の中に皆の暖かさが確かに宿ってるんだから。 ――――どっちが詩人なんだか。 呆れたように言う日比谷の声が聞こえた気がして、自分でもイタイよなぁ今の、なんて思いながら、オレは窓の外に見える月を仰いだ。 姉ちゃんの凛とした姿を思わせるような月の光は、さっきほど氷のようには見えなくて。 むしろ、心に優しく注ぎ込んで潤してくれる水のようで。 オレは空いたグラスに残っていたシャンパンを少し注ぎ、そのグラスを月に向かって軽く捧げる。 「――――May angels' blessing is in us, in every night」 どんな夜にも、オレたち全てに天使の祝福が在りますように。 小さな祈りの言葉とと共に、月がグラスの中で優しく揺れて、踊った。 |