38.6度 |
最近、気がついたことがある。 「38.6度」 「?」 突然謎の数値を言った私に、珪はキョトンとした顔を見せた。 「なんだそれ。温度か?」 「ううん、角度」 「角度?……なんの」 「私が珪を見上げる時の角度」 18cmの身長差があるから、どうしても珪を見上げるようになるでしょ。 で、最近はこの角度で見上げることが多いのね。 もちろん靴を履けばヒールの高さで変わってくるんだけど、こうやって何も履かないで立ってる時なんかだと、その角度になってるんだよ。 そう言うと、珪はどこか呆れたような顔で微笑った。 「……何読んだ?」 「えへへ、押入れから数学の教科書が出てきたんで、ちょっといろいろ計算してみました、三角比」 大学の専攻は被服学だから数学を使わないわけじゃないんだけど、基礎数学の三角比は滅多に使わないので懐かしいなぁと思いながら復習してみたんだ。 そうしたら、気が付いたの。 珪を見上げる私の目がほぼ一定なことに。 「つまり私と珪、抱き合った時にはこの距離で会話してるんだな〜って」 そしたら呆れたような苦笑の息がふと届いた。 「……ここのところ、なに考えてたのかと思えば」 「珪のことには変わりないでしょ?」 にっこり笑うと、背中に回った彼の腕に力が篭った。 「じゃあ変えてやる、その角度」 その言葉が終わらないうちに、彼を見上げる角度が一瞬だけ大きくなって――――すぐに距離ごと、0になった。 |